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「跪いて接吻を強請れ(ひざまずいてくちづけをねだれ)」03 TSF属性・アダルト向けライトノベル

「あ……」
 弛んだ威緒の唇から、艶かしい吐息が漏れる。既に抗う様子は無い威緒は、頬を染めて、赤マントの男……吸血鬼に身を委ねている。
 目にした経験が無い、姉の艶っぽい様子を目にして、少年の頭の中に、マンガや映画などで得た吸血鬼に関する知識が浮かんで来る。吸血鬼に血を吸われる際、女性は性的なものと同様の快楽を覚えるという話を。
 そして、血を吸われた者が、その後どうなってしまうのかも、少年は思い出してしまう。少年が過去に楽しんだ、吸血鬼が出て来るマンガや映画などのフィクションだと、吸血鬼に血を吸われた者も、吸血鬼になってしまうという設定になっている場合が、多かったのである。
(血を吸われたって事は、威緒姉は吸血鬼になっちゃう訳?)
 瀕死の重傷を負った状態で、少年は威緒の身を案ずる。そして、どうにか威緒が吸血鬼になるのを防ぎたいとは思うのだが、その手段は思い浮かばず、実行する能力も、既に少年には無い。
 ただ姉が吸血鬼に血を吸われ、吸血鬼になってしまうかもしれない光景を、血塗れの姿で見上げる事しか出来ないのだ。何も出来ぬ自分に、苛立ちながら、
「――さて、とりあえず空腹は満たした事ですし、続きは館に戻ってからにしましょうか」
 威緒の首筋から唇を離し、顔を上げた吸血鬼は、そう呟いてから、血に塗れた口元を真紅のハンカチで拭う。
「この辺りは、邪魔な連中が多過ぎるので、ゆっくり食事を楽しむ場には、向いていませんからね」
 既に吸血鬼は、威緒を拘束してはいないのだが、威緒には逃げようとする様子も、瀕死の状態となっている弟の身を案ずる様子も無い。うっとりとした様な表情を浮かべ、吸血鬼に縋り付いているだけである。
「では、夜空のランデブーでも楽しみながら、戻るとしましょうか、私の館に」
 そう言いながら、吸血鬼は威緒を抱き抱える。いわゆる、お姫様抱っこと言われる感じで、威緒は素直に吸血鬼の腕の中に納まる。
 ひらりと赤マントを翻しながら、吸血鬼の身体が、上昇を始める。レトロなアメリカン・コミックスに出て来るスーパーヒーロー、もしくは巨大な真紅の蝙蝠の様に、吸血鬼は威緒を抱き抱えたまま、夜空に舞い上がって行く。
(こいつ、本当に空を飛べるのか!)
 少年は心の中で、驚きの声を上げる。先程、夜空を飛び回っていたという吸血鬼の発言を、少年は信じてはいなかったのだが、現実に空を飛ぶ姿を見せられてしまっては、既に疑う余地は無い。
(このままじゃ、威緒姉を吸血鬼にさらわれちまう!)
 悔しげに心の中で嘆いても、少年には何も出来ない。死を待ちながら、大事な姉がさらわれる光景を、少年は見送るしかない。
 吸血鬼は既に、電柱を越える高さまで舞い上がった。このまま吸血鬼が夜空を飛び去り、威緒を誘拐してしまうだろう事は、確実な状況だった。
 直後、爆音の様な轟音が夜空を震わせ、オレンジ色の流れ星の様な何かが、何処からか飛来し、吸血鬼の背中を直撃する。直撃した何かは、花火の様に弾け飛ぶ。
 吸血鬼の悲鳴が夜空に響き、真紅のマントがオレンジ色の炎に包まれ、燃え上がる。すると、飛行能力はマントに依存していたのだろう、吸血鬼は撃ち落された野鳥の様に、少年から百メートル程離れた路上に、墜落して来る。
 墜落する吸血鬼の姿を見て、何者かが吸血鬼に攻撃を放ち、撃墜したのだと、少年は悟る。同時に、その攻撃に威緒が巻き込まれていないかどうか、不安に苛まれる。
「――い……うぁ……」
 名を叫んで、無事かどうか確認したいのだが、喉を切り裂かれている少年は、声が出せない。当然の様に、声にならない少年の声は、威緒には届かず、威緒からの返事は来ない。
 だが、少年の声にならない声に、応える者がいた。
「安心して下さい。あの吸血鬼が抱き抱えている女性には、ダメージは有りません。ちゃんと飛行用のマントだけを狙って焼きましたし、吸血鬼に一度でも血を吸われた者なら、あの程度の高さから落ちても、無傷で済みます」
 声の主は、少年の傍らにしゃがみ込み、少年の顔を覗き込んでいる、不可思議な格好をしている若い男だった。どの様に不可思議な格好なのかというと、西洋の騎士が装着する鎧の様なプロテクターを、若い男は身に纏っていたのである。
 鎧の色は、闇夜に溶け込む黒。顔の上半分だけを隠す仮面の色も、手にしている武器も黒である。ファンタジー物の娯楽作品などに散見される、黒騎士といった感じの格好をしているのだ、その若い男は。
 ただ、その黒騎士風の男が手にしているのは、騎士の格好に似合う槍や剣では無い。鎧同様の華美な装飾が施されているものの、現代の兵士の武装である、無反動砲風の形状の、手持ち式の筒状の火砲だった。
(さっきのオレンジ色の奴は、こいつがやったのか?)
 火砲らしき形状の武器と、先程のオレンジ色の何かによる攻撃が、少年の中で繋がり、先程の攻撃は、この黒騎士風の男が、手持ち式の火砲で行ったのだろうと、少年は推測する。その推測は、正鵠を射ていた。
「随分と酷くやられてますね……こいつは、通常の魔法で治療するのは、無理だな」
 満身創痍の少年の様子を観察し、黒騎士風の若い男は呟く。
「何をやっている、切裂(きりさき)! そこの被害者は、僕が助けるから、貴様は血塗鴉(ちまみれがらす)を捕えに行け!」
 何処からか聞こえて来た甲高い声を耳にして、黒騎士風の男は立ち上がる。
「承知しました、御主人様。この少年のダメージは致命傷。御主人様でもアテュを使わないと、命を救うのは無理だと思うのですが……」
 切裂と呼ばれた黒騎士風の若い男、切裂天魔(てんま)は話を続ける。
「御主人様が御自分でお助けになると仰るなら、この被害者の少年は、御主人様にお任せ致しますので、残り一枚だけの筈のアテュをお使いになり、責任を持ってお助け下さい」
 そう言い残すと、天魔は疾風の様な速さで、墜落したばかりの吸血鬼に向かって駆け出す。つまり、甲高い声の主が血塗鴉と呼んだのは、赤ずくめの吸血鬼の事だったのだ。
「あの忌々しいカードを使わなければならない程に酷いのか、被害者の容体は?」
 荒い呼吸の音と、パタパタという子供の足音の様な音が、少年の耳に入る。先程、天魔が御主人と呼んだ、甲高い声の主が、自分の元に駆け寄って来ているのだろうと、少年は察する。
(俺を、助けられるかもしれない奴の足音……。どんな奴なんだ?)
 程無く、足音が少年の傍らで止まる。既に死を免れられないだろうと、自覚出来る程の重傷を負った自分を、助けられるかもしれない者の姿を、少年は期待半分、疑い半分といった感じの心境で、見上げる。
 少年の目に映ったのは、少女と見紛う外見の、少年だった。少年にしては長い黒髪を、オールドファッションなダークスーツの肩に垂らしている、十二歳位に見える、男の子だったのである。
 そして、その可愛らしい少年の顔に、瀕死の少年は見覚えがあった。
(――こいつ……悧音(りおん)じゃねーか!)
 瀕死の少年は、自分を見下ろす少年の顔を見て、思い出した名を心の中で呼んでみる。そして、すぐに違和感を感じる。何故なら、自分を見下ろす少年の顔や身体の大きさが、記憶に残っている小学校時代の同級生、黒羽裏(くろうり)悧音と、全く同じだったからである。
 小学校卒業後、瀕死の少年は悧音と、一度も顔を合わせていない。つまり、記憶の中にある悧音の姿は、十二歳当時のものなのだ。
 同い年である悧音が、十二歳当時の姿のまま、自分の前に姿を現す筈が無い。その事に気付いたからこそ、瀕死の少年は違和感を感じたのである。
(そっくりだけど、別人か……)
 瀕死の少年が、心の中で呟いた直後、ダークスーツの少年が、驚くべき言葉を口にした。
「――何処かで見た顔だと思ったら、お前……威智(いち)か」
 ダークスーツの少年に、自分の威智という名を呼ばれ、瀕死の少年である天慶威智は、驚きの表情を浮かべる。
「致命傷を負った被害者が、まさかお前だとはな……」
 溜息を吐き、ダークスーツの少年は、顔を顰める。物凄く嫌そうに。
「よりによって、お前なんかを助ける為に、あれを僕は使わなきゃならないのか? 冗談じゃないぞ、全く!」
 吐き捨てる様な口調で、ダークスーツの少年は続ける。
「おい、威智! お前……このまま死んでくれ。 はっきり言うが、僕はお前みたいな奴を助ける為に、あのアテュのカードを使うのは、御免被りたいんだよ」
(な、何を言ってやがるんだ、コイツは?)
 ダークスーツの少年が語る内容の意味が分からず、威智は首を傾げる。
「昔、お前には散々酷い目に遭わされたからな。居眠りをしている間に、額に油性ペンで、漢字で肉って書かれたり、ノートに卑猥な落書きをされたり、トイレの個室に入って用を足してたら、上からバケツで水をかけられたり、給食のデザートを毎回勝手に食べられたり、ホモだって噂を流されたり……」
(あれ? これって全部、俺が小学校の頃、悧音にやった悪戯じゃん。すると、やっぱりこいつ……悧音なのか? 何故だか、歳を取ってないみたいだけど……)
 威智が察した通り、威智を見下ろしている少年は、黒羽裏悧音本人だった。小学校を卒業して以来、顔を合わせていなかった悧音が、その当時の姿のまま、威智の眼前に姿を現したのだ。
「散々、僕の事を苛めた威智を助ける為に、あのアテュを使う気にはなれないんだ。だから、このまま死んでくれ、悪いけど」
(いや、確かに昔苛めたというか、色々と悪ふざけしたのは事実だが、一応は幼馴染相手に、死んでくれはねえだろうが!)
 心の中で悧音に毒づいた直後、威智の視界は、急速に暗くなり始める。そして、感じていた痛みが、消え失せて行く。傷が癒えたから痛みが消えたのでは無い、死にかけているせいで、身体中の感覚が、無くなり始めているのである。
(――やばい、とうとう……限界か)
 血塗鴉と呼ばれる吸血鬼から、致命傷となる斬撃を、全身に浴びせられ、大量出血してから、既に数分が過ぎている。人並み外れて丈夫だった威智の身体は、既に衰弱し切り、死を迎えようとしていた。
 悧音のものだろう、忌々しげな舌打ちの音を耳にした直後、エンドロールが終わったスクリーンの様に、威智の視界は真っ黒になる。威智の意識は、途切れたのだ。


          ☆          ☆

 メイン二人が少年と美少年という状態で、TSF物の匂いがしないどころか、ヘタすればBL系の匂いがしてしまいそうな状態ですが、この作品は確実にTSF作品です。

          ☆          ☆

 前作のTSF系アダルト向けライトノベル「少年少女ミケ」、DLsiteで発売中!
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「跪いて接吻を強請れ(ひざまずいてくちづけをねだれ)」02 TSF属性・アダルト向けライトノベル

「私が好きな色、何だか分かりますか?」
 唐突に、赤マントの男は、少年達に向かって問いかける。
「――そりゃ、赤だろ」
 当たり前だと言わんばかりの口調で、少年は答える。赤マントの男が、噂で聞いている、若い女の子を狙う怪人……赤マントである可能性が高いと判断したので、威緒の身を護るかの様に、威緒を自分の身体の陰に隠しながら。
「その通り! 情熱の赤! 希望の赤! そして鮮血の赤! 赤って素晴らしい色ですよね! 君達も、そう思いませんか?」
 赤マントの男は、少年達に歩み寄りながら、大仰な口振りにジェスチャーを交えつつ、再び問いかける。
「いや、別に……。俺、どっちかといえば青系の色が好きだし」
 少年は素っ気無く、答えを返す。
「それはいけない! 青なんて好きな人は、ろくな目に遭いませんよ! ああ、残念だ……時間があれば、これから四時間くらいかけて、私が赤の素晴らしさを君達に語り、君達の好きな色を赤に変えてあげられるのに、残念ながら、今の私には時間が無い!」
 頭を抱えて、悩ましげに首を横に振りながら、赤マントの男は少年達に近付いて来る。近付くにつれ、赤マントの男の背が、自分より拳二つ程高い事が、少年には見て取れた。
「私の事を犯罪者呼ばわりし、追い掛け回している連中が、この辺りを徘徊しているのでね、時間が無いのですよ、私には!」
「追い掛け回されていて、時間が無いなら、こんな所で俺達と喋ってないで、さっさと何処かに逃げやがれ!」
「――逃げたい所なんですが、用事を果たさずに、逃げる訳にはいきません!」
「用事ねぇ。最近、若い女の子ばかりをさらう、怪人赤マントって呼ばれてる変質者の噂が流れてるんだが、その用事ってのは、まさか人さらいじゃねえだろうな?」
 赤マントの男は、少年達から三メートル程離れた場所で立ち止まると、口元を歪ませる。マスクで顔の上半分が隠されているので、表情を正確に読み取るのは難しいが、赤マントの男が笑みを浮かべているだろう事は、明らかであった。
「人さらいだなんて、まるで悪事であるかの様な呼び方は、止めて欲しいものですね。食事……もしくは食料の調達と呼んで欲しいものです」
 少年の陰から顔を出し、覗いている威緒を指差しつつ、赤マントの男は話を続ける。
「私にとって、そこにいる様な可愛らしい乙女こそが、最上の食料なのですから」
「か、可愛らしい乙女だって! そんな事言われたの、初めて!」
 威緒は少し嬉しそうに、少年の耳元で囁く。
「変質者に褒められて、喜ぶな! それと、食料とか言われてる部分を、怖がれ!」
 呆れた様な口調で、少年は威緒を嗜めると、赤マントの男を睨みつける。
「それにしても、乙女とは……随分と古臭い言葉遣いだな。古臭いのは、ファッションだけじゃないって事か」
「乙女という言葉が古臭いというなら、そうですねぇ……生娘とでも言い換えましょうか」
「き、生娘? それはそれで、乙女と同程度には古臭い言葉な気が……って、それ以前に、お前が言う所の乙女って、そういう意味の乙女か!」
 乙女という言葉には、若い魅力的な女性という意味合いとは別に、処女という意味もある。少年は、赤マントの男が乙女という言葉を、処女という意味合いで使っているとは、思っていなかったのだ。
「その通り! 今宵の晩餐にする為の乙女を探し回り、夜空を飛び回っていた所、君の後ろにいる乙女……生娘の素敵な匂いに誘われてしまった私は、君達の行く先に先回りして、この場で待ち伏せさせて貰ったのですよ」
「夜空を飛び回るだの、生娘の素敵な匂いに誘われて……だの、何アホな事言ってるんだよ、おめーは? 幾らマントつけてる怪人でも、空を飛んだり、匂いで処女かどうかを、判別したり出来る訳がねーだろ!」
 少年は、赤マントの男の発言を、常識的な形で否定する。普通の人間には、空を飛び回ったり、匂いで処女かどうかを判別するのは不可能なのだから、少年が赤マントの男の発言を否定するのは、当然といえる。
「嘘ばっか吐いてるんじゃねえよ、この変態怪人赤マント!」
「――案外、本当かもよ、この怪人赤マントが言ってる事」
 突如、威緒に意外な意見を耳元で囁かれ、少年は驚いて聞き返す。
「何で? 本当な訳ねーだろ!」
「だって……私が処女だって、当てたもん」
 仄かに頬を染めながら、威緒は赤マントの男の発言が正しいかもしれないと考える、根拠を述べる。
「え、そうなの?」
 少年の言葉に、威緒は頷く。
「そういえば、確かに威緒姉の男関連の話って、これまで皆無だったよな。それに、考えてみれば、威緒姉って色気無いし、男と縁の無さそうなオーラ、出しまくりだし……」
「し、失礼ね! そんな妙なオーラなんて出して無いってば! それに、異性と縁が無いって事に関しては、あんただって人の事、とやかく言える資格無いじゃない!」
 威緒は語気を荒げ、少年に食って掛かる。
「あんただって、女関連の話、これまで全然無かったんだから!」
「あるって、女関連の話くらい、幾らでも! 威緒姉が知らないだけで!」
 少年は強い口調で、威緒の話を否定する。
「ここだけの話だけど、これまで俺が抱いた女の数は、最近某自動車会社がリストラした派遣社員の数に、匹敵するんだぜ!」
「嘘ばっかり! 幾ら見た目だけ遊び人を気取ったところで、あんたが童貞だって事くらい、お見通しよッ!」
「お、俺が童貞の訳がねーだろ! 何を根拠に、そんな事を?」
「フアンだったアイドルに、男性関連のスキャンダルが出ただけで、ショックを受けてフアンを止めて、古本屋に写真集を泣く泣く売りに行くような、童貞丸出しな真似をしたあんたが、童貞じゃない訳が無いでしょ!」
 威緒の話を聞いて、少年は額に嫌な汗を浮かべ、目線を不自然に泳がせ始める。
「何の話? 俺は……そんな童貞臭い真似なんて、してないけど?」
「あんたがフアンやってたアイドルのスキャンダルが、夕方のニュースの芸能ニュースコーナーを賑わした日の翌日、末成屋(うらなりや)っていう古本屋でバイトしてる友達から、メールが入ったのよ!」
(し、しまった! あの古本屋の店員、威緒姉の友達だったのかッ!)
 意外な事実を知らされ、少年は狼狽する。
「『あんたの弟が落ち込んだ顔で、昨日お泊りデートのスキャンダルが出た、アイドルの写真集売りに来たよ! アイドルのスキャンダル程度で落ち込むなんて、あんたの弟、可愛いねー』みたいな感じのメールが!」
 威緒は証拠を突き付けて被告を追い詰める、凄腕の裁判官の様な口調で、話を続ける。
「そんな童貞丸出しな真似をしておきながら、童貞じゃないとか言っても、説得力無いに決まってるでしょ!」
「――いや、あれは……あのアイドルに飽きたから、写真集を古本屋に売っただけだって。アイドルみたいな魅力的な女の子に、男がいない訳が無いじゃん! そんくらいの事、承知の上でアイドルとかは楽しむもので……」
 しどろもどろになって言い訳をする少年を、楽しそうに眺めながら、威緒は更に駄目押しをする。
「そういう物分りのいい事を言う奴程、本当はショックを受けているものなんだよね」
「まぁ、私が口を挟むのも、何ですが……」
 突如、赤マントの男が、話に割って入って来る。
「君からは、女性との経験がある男の匂いはしませんね」
「ほら、怪人赤マントの人も言ってるじゃない! あんたが童貞なのは、これで確定よ!」
「――では、君が童貞だという結論で、この話は終わりという事で」
「俺が童貞ってオチで、勝手に話を締め括ってるんじゃねえよ、この変質者が!」
 話を強引に締め括りにかかった、赤マントの男に対し、少年は食って掛かる。
「失礼! 長々と君達の話に付き合い続ける、時間的な余裕が有る程、私は暇では無いのでね、身勝手は承知の上で、話を締め括らせて頂いた」
 赤マントの男は大げさな身振りで、頭を下げて謝罪の意を示しつつ、話を続ける。
「追っ手に見付かる前に、私は用事を済ませなければならないのだよ」
 少年と威緒は、赤マントの男の用事が、食事や食料の調達であり、狙っている最上の食料が、この場にいる乙女、威緒自身であるのを思い出し、身構える。先程までは軽口を交わし、弛んでいた二人の表情が、警戒で引き締まる。
「おめーの用事といえば、食事だか食料の調達みたいな事言ってたな? しかも、乙女が最上の食料だとか……」
 赤マントの男は、少年の問いに、頷いてみせる。
「つまり、人さらいどころか、おめーは人食いって訳か。噂よりも、随分と物騒な変質者が出て来やがったな」
 スカジャンのポケットから、銀色に煌めく金属製の小物を取り出しながら、少年は続ける。
「人食い怪人赤マント! それ以上、俺達に近付いたら、おめーの身体をコイツで切り裂いて、全身血塗れにしてやるぜ!」 
 少年が取り出したのは、柄の部分が蝶の翅の様に開いて、刃が出て来るタイプの、いわゆるバタフライナイフ型の、軍用コマンドナイフ。軽やかな金属音を響かせながら、ナイフを器用に操作し、少年は刃の部分を柄から露出させる。
 明滅する街灯の光を反射し、ナイフの銀色の刃が煌めく。
「このコマンドナイフは、アメリカ軍が正式採用してる、軍用ナイフなんだ。おめーの身体なんて、バターナイフでバターを切るよりも簡単に、切っちまえるんだからな!」
 右手に持ったナイフの刃先を、赤マントの男に向けて、凄んで見せながら、少年は背後に隠れている威緒に話しかける。
「俺が迎えに来て、正解だっただろうが! 感謝しろよ、威緒姉!」
「まぁ、あんなヤバそうな変質者、一人で相手するのはヘビー過ぎるから、迎えに来てくれた事には、今は感謝してるけど……」
 威緒は少年の背後に隠れながら、少年に耳打ちする。
「そのコマンドナイフ、本当に切れるの? どうせエッチなマンガ雑誌の裏表紙の、胡散臭い通信販売で買ったレプリカでしょ、それ?」
「買ってないから! エッチなマンガ雑誌の裏表紙の胡散臭い通信販売で、ナイフや特殊警棒買う様な、ダサい真似なんてしないから、俺は!  このコマンドナイフは、沖縄に行った時、米軍基地に商品を納入してるショップで買った、本物のコマンドナイフだからッ!」
 実際は威緒の言う通り、エッチなマンガ雑誌に掲載されてた、胡散臭い通信販売で買ったレプリカであった為、少年は狼狽してしまう。だが、レプリカとはいえ刃物であり、それなりの切断能力はあるので、護身用の武器としては、十分な代物であった。
「とにかく、それ以上近寄ってみやがれ! おめーの全身が、血で真っ赤に染まる事になるぜ!」
 少年はナイフを構えながら、赤マントの男に警告を発する。
「大好きな赤に染められるのなら、有り難いくらいです」
 そう言いながら、余裕を持った態度と口調で、赤マントの男は少年達に近付いて来る。
「しかし……私は既に真っ赤といえる格好をしているのでね、これ以上赤く染まるのは難しいでしょう」
 ナイフでの脅しに構わず、赤マントの男が近寄って来るので、間合いが詰まらない様に、少年と威緒は後退りする。
「むしろ、私の用事の邪魔をしようとしている、青ずくめの君こそが、血の赤に染まるに相応しい……と思うんですよ、私としては」
 赤いマントの男は、胸の前で腕を交差させる。すると、マニキュアでも塗られているかの様に赤い、赤マントの男の爪が、赤い閃光を放ちながら、十センチ程の長さまで伸びる。
「いきなり猫みたいに、爪伸ばしやがって? 手品か?」
 突如、人間離れした変貌を遂げた爪を見て、驚いた少年は、赤マントの男に問いかける。
「爪が伸びたのは、手品では有りません。それに、私を動物に例えるなら、猫では無く、蝙蝠に例えて欲しいものですねぇ」
 そう言いながら、赤マントの男は少年に向かって襲い掛かる。
「!」
 攻撃の意思を悟った少年は、襲い来る赤マントの男にナイフを突き出し、迎撃しようとする。しかし、確実に赤マントの男を刺せる筈の、間合いとタイミングで放たれた少年の攻撃は、赤マントの男を捉える事は無かった。
 少年と赤マントの男の間に、数本の赤い光の軌跡が描かれた直後、少年が手にしていたナイフは切断され、数個の金属片と化してしまったのである。赤い光の軌跡は、長くて赤い爪が、瞬時に空間を移動した際に、残像として残されたもの……つまり、赤マントの男は手を振り回し、爪を刃物の様に用いて、少年のナイフを切断してしまったのだ。
(こ、こいつ……マジで人間じゃねえ!)
 ナイフを爪で切断され、少年はようやく理解する。自分が相手にしている赤マントの男が、どうやら人間では無いらしい事を。
「君の自慢のナイフより、私の爪の方が、良く切れるようです」
 刃物以上に強力な切断能力を持つ、赤くて長い爪による攻撃で、ナイフを切り裂いて金属片に変え、赤マントの男は少年の迎撃を無効化した。しかし、赤マントの男が切り裂いたのは、ナイフだけでは無かった。
 少年の全身に、赤いラインが十数本、浮き出る。直後、赤いラインから、勢い良く真っ赤な鮮血が噴出し始める。赤いラインは切り裂かれた裂傷、赤マントの男はナイフだけでは無く、ほぼ同時に少年の全身を、ナイフ以上に鋭利な爪で、切り裂いていたのである。
 全身を切り裂かれ、少年は激痛に苛まれるが、悲鳴を上げはしない。喉笛を切り裂かれ、気管を溢れ出る血に塞がれてしまった為、少年は悲鳴を上げられないのだ。ただ、苦しげに声にならない呻き声を上げる事しか、少年には出来ない。
「く……あ……」
 一瞬で致命傷といえるダメージを受けてしまった少年は、全身から噴き出る血で、身体中を真紅に染められながら、アスファルトの上に崩れ落ちる。
「素晴らしい! やはり血の赤に染まるのは、君の方が相応しかったようですね! 君の身体は、見事な赤に染まっていますよ!」
 血塗れとなり、仰向けに倒れている少年を見下ろしながら、赤マントの男は嬉しそうに語り続ける。
「美しい……消え行く命を飾る色は、赤! 赤で決まりです! 素晴らしき哉、鮮血の赤! 死を華麗に彩るは、赤! 赤いからこそ美しいッ!」
 瀕死の状態で倒れている少年の耳に届くのは、赤マントの男が、赤を讃える声だけでは無い。威緒の悲鳴も、届いている。
 誰の目にも致命傷だと分かる傷を負った弟の姿を見て、威緒は半狂乱となって泣き喚き、悲鳴を上げている。威緒は少年に近付こうとするが、その前に赤マントの男が、立ちはだかる。
(に、逃げろ! 威緒姉!)
 少年は威緒に、そう伝えたいのだが、既に声を出す能力を失っている。少年は心の中で、叫ぶ事しか出来ない。
 赤マントの男は、半狂乱になっている威緒の身体を、抱き締める様に拘束する。既に必要は無いと判断したのだろう、爪は元の長さに戻っている。
「君の弟さんは、見事な赤に染まりながら、死の世界に旅立つ事になりました。これで、私の食事を邪魔する者はいません」
 抱き締めている威緒の耳元で、赤マントの男は囁く。
「さっそく、貴女を頂かせて貰いましょうか。乙女である、貴女を」
 そう囁いてから、舌なめずりをする赤マントの男を見て、半狂乱になっていた威緒は、恐怖の余り硬直してしまう。自分が赤マントの男にとっては食料だという事が、威緒の頭の中に蘇ったのだ
 瀕死の状態の少年は、何も出来ない自分に悔しさを感じながらも、ただ危機に陥った姉を、見守るしか無かった。まともに身動きすら出来ない、死を待つだけの少年に、威緒を救う能力は無かった。
 悲鳴が、夜空に響き渡る。赤マントの男が口を開き、自分に食らいついてくる姿を目にした威緒が、悲鳴を上げたのである。
 赤マントの男は食料である威緒に、食らいついて食べ始める……。そんな凄惨な光景が、この場で繰り広げられるだろうと、少年と威緒は思っていたのだが、そうはならなかった。
 確かに、赤マントの男は威緒の首筋に、食らいついた……というよりは噛み付いたのだが、威緒を食べはしなかった。首筋に噛み付いた赤マントの男は、そのまま美味しそうに、威緒の血を吸い始めたのだ。
(血を……吸ってるのか?)
 赤マントの男が噛み付いた、威緒の首筋から流れる血と、赤マントの男の喉が、何かを飲み干しているかの様な動きを見せている事から、少年は赤マントの男が血を吸っているらしいと、察する。そして、少年は赤マントの男の様々な発言から分かった事を、思い浮かべてみる。
(処女が好きで、蝙蝠に例えられたがって、処女の血を吸うのが、食事……)
 血を吸われている威緒は、これまで少年が目にした覚えが無い、恍惚とした……蕩け切った様な表情を浮かべていた。まるで、赤マントの男に血を吸われるのが、快感であるかの様に。
(それって、つまり……吸血鬼って奴じゃん)
 死が間近に迫った状態まで追い詰められ、ようやく少年は真実に辿り着いた。最近、郭里世近辺で、都市伝説……噂として語られる人さらい、怪人赤マントの正体が、吸血鬼である事に。

          ☆          ☆

 現時点では、全くTSF作品だと思えない状態ですが、当作品は今後確実にTSF展開を迎える、TSF作品です。

          ☆          ☆

 ダウンロード同人版の「少年少女ミケ」の販売数が、100本に達しました。御買い上げ有難うございます。テキストオンリーのオリジナル同人は、全然売れないと聞いていたので、結構驚きです。
 伊月ネタの評判が良かったようですね、頂いたコメントを見た範囲では。

 前作のTSF系アダルト向けライトノベル「少年少女ミケ」、DLsiteで発売中!

「跪いて接吻を強請れ(ひざまずいてくちづけをねだれ)」01 TSF属性・アダルト向けライトノベル

「迎えになんて来なくても、良かったのに」
 そう言いながら、キャラメル色のダッフルコートに身を包んだ少女は、苦笑する。場所は寂れた境目駅(さかいめえき)の駅前、時間は午後八時の手前である。
「おめーの帰りが遅いから、わざわざ迎えに来てやってるんだろうがよ! 迎えに来られるのが嫌なら、もう少し早く帰って来いっつーの!」
 少女と対峙している少年は、ライオンの鬣(たてがみ)を思わせる山吹色の髪を、アルミニウム製の銀色の櫛で整えながら、少女に言い返す。
「コドモじゃないんだから、部活のせいで、ちょっと帰りが遅くなったくらいの事で、弟に迎えに来て貰う必要……無いのに」
 一つ年下の弟である少年に、少女は不満を口にする。通っている高校から帰宅中の少女は、ダッフルコートの下に、ダッフルコートと同じ色使いの、ブレザータイプの制服を着込んでいる。
「普段なら、そうなんだろうけど……そういう訳にも行かないだろ。最近、この辺りで女の子が何人も、行方不明になってるらしいんだから」
 髪を整え終えた少年は、櫛を畳んで、スカジャンのポケットにしまう。少年の穿いている色褪せたジーンズと、スカジャンのターコイズ・ブルーは、良く似合っている。
「しかも、行方不明になるのは、決まって夜ばかりで、学校帰りの女の子とか、何人も被害にあってるって話だぜ。そんな噂が出てるから、わざわざ帰りが遅れた威緒姉(いおねえ)を、可愛い弟が迎えに来てやってるんだろうが」
 年上の姉に対するものだとは思えない、ふてぶてしい言葉遣いで、少年は姉である少女……天慶(てんぎょう)威緒に、語りかける。威緒と並んで境目駅に背を向け、夜道を歩き出しながら。
 百七十センチ近い身長の威緒は、高校二年生の女子にしては、背が高い部類に入るのだが、並んで歩くと、弟である少年の方が、拳一つ程背が高い。
「ただの噂でしょ、そんなの。ニュースとかでも、全然報道されてないじゃない」
 そう言いながら、少女は長い黒髪を揺らしつつ、早足で歩き続ける。既に冬である十二月初頭の夜、喋るのと同時に口から漏れる息は、白くなる。
 姉弟ではあるのだが、二人は余り似ていない。二人共顔立ちは整っているのだが、少年は目付きの鋭い、野性的で不良っぽい印象であるのに比べ、威緒の方は温和そうな目付きで、真面目そうな印象である。
 二人の性格は、見た目通り。威緒は進学校に通いつつも、部活動や生徒会活動などに励んでいる、真面目な生徒なのだが、少年の方は並の高校に不真面目に通い、部活動などもせず、バイトや遊びなどで、気楽に毎日を過ごしている。
 水と油の様に性格が合わないのだが、二人の仲は悪くは無い。優等生ではあるが、どこか抜けている姉である威緒の身を案じ、夜に駅まで出迎える程度に、少年は家族思いではあるのだ、素行や学力に、多少の問題はあるものの。
「火の無い所に煙は立たないって言うだろ、暫く前から噂になってんのよ」
 少年は、遊びやバイトの仲間の間で流れている噂について、威緒に語る。
「怪人赤マントとかいう変質者が、この辺りで若い女の子を、何人もさらってるんだけど、その怪人赤マント……警察でも手を出せないアンタッチャブルな存在で、報道も規制されてるって話だぜ」
「怪人赤マントって、昔流行った学校の怪談じゃない。学校のトイレに現れた男が、『赤いマントと青いマント、どっちが欲しい?』とか訊いてくる奴」
 小学生時代に流行った学校の怪談を、威緒は懐かしげに思い出す。
「確か、『赤いマント』って答えると、ナイフで刺されて、血塗れの姿で殺されて、『青いマント』って答えると、身体中の血を吸い尽くされて、真っ青な身体になって死ぬんだよね、あれ」
「その……学校の怪談の怪人赤マントじゃなくて、他にもあるのよ、怪人赤赤マントの話って。都市伝説なんだけどさ」
「都市伝説の怪人赤マント? それって、どんなの?」
「赤いマントを着けた怪人つーか変質者に、女の子がさらわれて殺されるって奴。殺すだけじゃなくて、暴行するってバージョンもあるぜ、性的な意味で」
 真剣な顔で都市伝説について語る少年を見て、威緒は呆れ半分で笑みを浮かべる。
「――でも、マントなんて着けてる時点で、最近の話じゃないよね。今時マントは無いでしょ、マントは。どうせ、古臭い都市伝説なんじゃないの?」
「まぁ……その都市伝説が広まったのは、昭和の時代だから、古臭いって言えば古臭いんだけど、ダチに聞いた話じゃ目撃者とかいるらしいのよ。甘いマント着けた怪人に、女の子がさらわれた場面のさ」
 話しながら歩いている内に、姉弟は他に人気が無い道に出る。街灯と月明かりがあるので、闇夜という程では無いのだが、都会とは程遠い寂れた町なので、駅から少し離れた道は、大通りでも無ければ、夜には殆ど人通りが無い。
「その目撃者が見た怪人って、どんな感じの奴だったの?」
 気楽な口調で、威緒は少年に問いかける。口調と表情の気楽さから、威緒が少年の話を、全く信じていないのは明らかだった。
「赤いマントに赤いスーツ、顔の上半分を羽飾りの付いたマスクで隠してる、長い金髪の背が高い男……」
 少年は友人達や、ネットのアングラサイトなどから集めた、怪人赤マントの外見に関する情報を整理し、威緒に説明する。ネットの都市伝説などの情報が集まるサイトや掲示板などでは、少年の地元である関東州の外れ……郭里世特別行政区(かくりよとくべつぎょうせいく)で、目撃証言が相次いでいる怪人赤マントの話題が、色々と出回っているのだ。
「それって、ひょっとしたら……」
 突如、威緒は立ち止まり、微妙に顔を引き攣らせながら、右手で正面を指差す。
「あんな感じの人?」
 少年は威緒が指差した方向に目をやる。すると、既に寿命を迎えているのだろう、二十メートル程離れた場所にある、明滅している街灯の下に、一人の怪しげな人影が、少年の目に映る。
 明滅する街灯のせいで、点滅しているかの様に見える人影は、まさに先程、少年が口にしたまんまの姿をしていた。赤いマントにスーツ、羽飾りの付いたマスクに、長い金色の髪……といった感じで。
「か、怪人……赤マント!」
 噂で聞いた怪人と、同じ姿をしている男が、実際に現れたのを見て、少年は驚きの声を上げてしまう。

          ☆          ☆

 という訳で、新作開始です。

          ☆          ☆


 前作のTSF系アダルト向けライトノベル「少年少女ミケ」、DLsiteで発売中!
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