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「跪いて接吻を強請れ(ひざまずいてくちづけをねだれ)」12 TSF属性・アダルト向けライトノベル

 エアコンが効いているのだろう、裸のままベッドに横たわっていても、威智は寒さは感じない。仰向けになっている威智は、右手を胸に、左手を股間に伸ばし、本来なら人目に晒さない部分を隠している。
「私は医者なんだから、恥ずかしがる必要は無い。手を除け給え」
 医者が患者を諭すかの様な口調と態度で、冴子に命じられた威智は、おずおずと手を除ける。頬を染め、不自然に目線を泳がせながら。
(――まぁ、確かに変に恥ずかしがる方が、意識し過ぎなのかもな。相手は医者なんだし、そもそも男の時は、裸見られるくらい、大して恥ずかしく無かったんだし)
 威智は心の中で、そう自分に言い聞かせる。無論、気休めにもならないのだが。
「素直でよろしい」
 冴子は満足気に呟きながら、威智の身体を見下ろす。滑らかな白い肌に包まれた、引き締まった若々しい肉体を、冴子は嘗め回す様な目で見る。
「豊かな胸……とてもじゃないが、昨夜まで男だったとは思えない、けしからん乳だ」
 仰向けになっている為、重力のせいで少しひしゃげているが、威智の乳房のボリュームは、十分に冴子には見て取れる。
(けしからん乳って、医者が口にする言葉じゃねー気がするけど)
 冴子を見上げながら、威智は心の中で不審そうに呟く。
「どうやら、外見上の異常箇所は見当たらない様だな。かなり薄くなっているとはいえ、黒羽裏の六芒星も、ちゃんと肌に現れているようだし」
「黒羽裏の六芒星? 何だよ、それ?」
 威智は意味が分からない、黒羽裏の六芒星という言葉の意味を、冴子に問いかける。
「黒羽裏家の僕となった証としての、印の事さ。君の場合は、胸元に現れているよ。確認して御覧」
 冴子が懐から取り出したコンパクトを借りて開き、威智は自分の胸元を鏡に映して、確認する。そして、ビー玉程の大きさの、星型の六角形が一つ、白い肌に描かれている事に、威智は気付く。
 見付けるのが困難な位に、薄い灰色で描かれていた為、悧音は自分では六芒星の存在に、気付かなかったのだ。
「その印は、君と悧音坊やが交わした、主従契約の契約書みたいなものなのよ。その印がある限り、君は悧音坊やの命令には、絶対に逆らえない」
「俺が悧音の命令に、逆らえない?」
 威智は眉を顰め、不快感を露にする。
「主従契約を交わさなければ死んでたんだから、死ぬよりはマシでしょ。それに、悧音坊やは良い子だから、そんな無茶な命令は下さないだろうし、安心してていいよ」
「そうだと良いんだけど……」
 自分が過去に悧音に対して行った、様々な酷い真似が脳裏を過ぎり、威智は少しだけ不安になる。他の者に対しては良い子である悧音が、過去の恨みがあるだろう自分に対しては、そうだとは限らないかもしれないと、威智は思ったのだ。
「本来、黒羽裏の六芒星の色は黒。君のも本来は黒なんだろうが、今は薄まって……殆ど消えかかっているくらいに、灰色になっている様だね。有り難い事に」
「何が有り難いんだ?」
「いや何、こっちの話さ」
 冴子は威智の黒羽裏の六芒星の色が薄くなっているのが、有り難いと感じる理由について、はぐらかす。
「――で、君は何をしているんだ?」
「え? ああ、外見上の異常個所は無いって言ってたから、もう身体を隠してもいいかなと思って」
 チェックが終わったのだと判断した威智は、掛け布団を被り、身体を隠そうとしていたのだ。
「何を言ってるんだね、まだチェックは終わっていないぞ」
 冴子は威智が被った掛け布団を、平然と剥ぎ取りながら、言い放つ。
「――異常は見当たらないって、言っていたじゃないか!」
「外見上はね。これから内部……特に神経に異常が無いか確認するから、まだ身体を隠して貰っては困る」
「神経って……ひっ!」
 話している途中、威智は心臓が止まりそうな程の衝撃を受ける。威智は突如、両胸に手を伸ばして来た冴子に、乳房を揉まれたのだ。
「な、何しやがんだよ、いきなり!」
 威智は声を上擦らせ、冴子に抗議の声を上げる。冴子の両手を、振り払おうとしながら。
 しかし、冴子の力は見た目より遥かに強く、威智は冴子の両手を振り払う事が出来ず、胸を揉まれ続けてしまう。
「何をって……触診に決まっているじゃないか」
「触診?」
「触って診察する事だよ」
「言葉の意味くらい知ってるって! 何で触診なんかする必要があるんだよ?」
「昨夜、悧音坊やに受けた魔法により、君の身体は相当に強引な形で、作り変えられている。そして、人間の身体で最も繊細に作られているのが、神経なんだ」
 冴子は生徒に接する女教師の様に、威智に触診を行う理由を解説する。
「その神経が正常に作り変えられ、機能しているかどうかを確かめるには、胸などの性的な感度の高い部分に性的な快感を与えて、反応を見るのが一番なんだよ」
 当然だと言わんばかりの口調で、冴子は続ける。
「触診の邪魔になるから、手を除け給え」
 医者に身体の……神経の状態を確かめる為だと言われれば、それに言い返せるだけの根拠が、威智には無い。多少、納得行かない部分はあるものの、威智は手を除けざるを得なかった。
 威智の手が退いた為、冴子は再び、思うが侭に威智の乳房を、揉み始める。真面目な顔付きで、柔らかな乳房に指先を埋める。
 リズミカルに強弱をつけて、乳房を揉み込む冴子の愛撫は、手慣れている。未開発な威智の身体を、易々と解き解してしまう程に。
(――何か、変な感じがする)
 胸を揉まれ続けている内に、これまで感じた事が無い様な感覚を、威智は覚える。何処かもどかしい様な、熱いような……不思議な感覚に、威智は戸惑うが、程無く感覚の正体が、胸を刺激された快感なのだと、気付く。
(胸って……触られると気持ちいいんだ)
 自慰の際に、性器を自分で弄る場合などとは微妙に異なる、身体が解き解されるかの様な、仄かで心地良い快楽。それは、威智にとって初めての感覚であった。
 免疫の無い種類の快楽に興味を覚え、威智は思わず目を細めて、冴子の為すがままになり続けてしまう。すると当然、心地良さを感じた威智の乳首は、硬く膨らみ始めてしまう事になる。
「――硬くなって来たという事は、感じてるみたいだね」
 指先で威智の両乳首を弄り、硬さを確かめながら、冴子は呟く。
「え? あ? いや、別に感じてなんか……」
 威智は慌てて、冴子の指摘を否定する。男性の身体でも、性的に昂ぶると乳首は起つのだが、女性の身体程目立たないので、威智は性的に昂ぶっている際、自分の乳首の状態など、気にする思考回路自体が存在しなかった。
 それ故、胸を揉まれて心地良さを覚えながらも、それで自分の乳首が起ち、揉んでいる相手に自分が性的な快楽を感じていると悟られる可能性を、威智は意識出来ずにいたのだ。だからこそ、威智は性的な快感を覚えながら、冴子に無防備に胸を触らせ続けてしまったのである。
「誤魔化さなくていい、胸を愛撫されたら、感じて乳首が起つのは当たり前の事なんだ。当たり前の反応があったのだから、君の胸や神経は、正常だという事さ」
 冴子は威智の胸から手を離しながら、話を続ける。
「――では、次は生殖器を触診してみるから、太股を開き給え」
「ちょ、ちょっと待て! 胸を揉んだ反応で、もう俺の神経が正常なのは分かったじゃねえか! もう触診は必要無いだろ!」
 威智は狼狽し、抗議の声を上げる。
「何を言っているんだね、胸を揉んで確認出来るのは、上半身の神経の状態だけさ」
「だからって、そんな……あそこを触診するだなんて、お断りだッ!」
 拒絶の言葉を、威智は口にする。しかし、拒絶の意思と言葉にも関わらず、威智の身体は素直に冴子の命令に従うかの様に両脚を開き、股間を冴子の目線に晒してしまう。
「え? な、何で?」
 脚を閉じるという指示を、何度も威智は下半身に送るのだが、身体は威智の思い通りにはならず、脚を開いたままである。
「――どうやら、君の身体は君の心より、正直みたいだね」
 威智の耳元に唇を寄せ、耳朶をくすぐるかの様に囁きながら、冴子はベッドに乗り、威智の上に四つん這いになる。そして、滑らかな肌を撫でながら、右手を威智の股間に伸ばす。
「ひ!」
 冷たい指先の感触を、敏感な股間に感じ、威智は思わず声を上げてしまう。
「や、止めろ! バカッ!」
 まるで本物の女の子の様な口調で、威智は冴子に食って掛かるが、冴子は構わずに威智の陰唇の周囲を、弄り回す。既に染み出し始めている露を、冴子は指先に付着させる。
「嘘吐きだねぇ、君は。君の身体は、止めて欲しくないって、正直に言っているようだよ」
 囁きながら、冴子は右手を威智の顔の前に移動させる。威智自身が分泌した液体に濡れた指先を……威智が感じている証拠を、冴子は威智に突き付ける。
(そ、そんな! ちょっと胸を揉まれただけなのに……)
 自分の身体が性的な快感を覚え、求めている証拠を突き付けられ、威智は戸惑いの表情を浮かべる。

          ☆          ☆

 前作のTSF系アダルト向けライトノベル「少年少女ミケ」、DLsiteで発売中!
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「跪いて接吻を強請れ(ひざまずいてくちづけをねだれ)」11 TSF属性・アダルト向けライトノベル

 カスタネットでも叩いているかの様な、リズミカルなノックの音が響いた後、ドアの向こうから聞こえて来るアルト気味の女性の声が、威智の耳に届く。
(あの執事やメイドとは、ノックの仕方が露骨に違うな。あの二人とは、別の奴か?)
 心の中で自問しながら、威智はベッドの上で身体を硬くする。 
「失礼するよ」
 威智の返事を待つ気など最初から無いのだろう、声の主はドアを勢い良く開けると、室内に入って来る。声の主は、白衣姿の大柄な女性だった。
 左目の目尻の下にある泣き黒子や、ルージュに染められた少し厚めの唇、女性らしいメリハリのある体つきのせいで、白衣に白のブラウス、黒のタイトなスカートという、素っ気無い服装にも関わらず、女の印象は艶っぽい。
「おや? お目覚めの様だね」
 上体を起こした姿勢で、胸を掛け布団で隠している威智を目にして、女が声をかける。人懐っこそうな笑みを浮かべて、ベッドに歩み寄りながら。
(医者みたいな格好……。ひょっとして、あのメイド達が話してた、松戸とかいう魔法医なのか?)
 桃生と天魔が、魔法医の松戸という人物の名を会話中に口にしていたのを、威智は覚えていたのだ。それ故、医者らしき格好をしている女を見て、威智は魔法医の松戸では無いかと、推測したのである。
「昨夜から、何度か部屋に様子を見に来てはいたのだが、これまでは意識が無かったから、話すのは初めてという事になるね」
 女は威智がいるベッドの傍らで立ち止まり、話を続ける。
「私は松戸冴子(まつどさえこ)、先代様の時代から黒羽裏家に仕えている、医者だよ。まぁ、普通の医者ではなくて、魔法で患者を治療する医者……魔法医なんだが」
 女……冴子の自己紹介を聞き、威智は自分の推測が当たっていたのを知る。
「あ、俺は……天慶威智」
 ストレートに自己紹介された為、威智も思わず、普通に自己紹介してしまう。
「知っているよ。悧音坊やから色々と聞いているからね。私が昨夜、吸血鬼化進行を抑える治療を施した、威緒ちゃんの弟だとか、昔色々と酷い目に遭わされたとか……」
「威緒姉は今、どうしてるんだ?」
 威緒の名が出て来たので、気になった威智は、冴子に聞いてみる。
「他の娘達と一緒に、地下室の食堂で昼食を食べているよ」
「――食堂で昼食? 随分と普通っぽい感じに聞こえるけど、大丈夫なのか?」
「この屋敷は、強力な魔法結界で隔離されているからね、その中では眷族は人に危害を加える様な真似も、外部にいる吸血鬼に連絡する事も出来ない。まぁ、実質的な監禁状態だが、屋敷の中でなら、普通の人間の様に生活出来るのさ」
「吸血鬼になるまでは……か?」
 冴子は、威智の問いに頷く。
「そういえば、あの執事……吸血鬼になったら、威緒姉は人間社会から追放されて、吸血鬼の世界に送られるみたいな事言ってたな」
「そうだよ。一度でも吸血鬼化したら、血を吸った吸血鬼が死のうが、人間に戻る事は無い。人間の住む世界を追放され、吸血鬼達の住む街の住民になって貰う事になるね」
「吸血鬼達の住む街? 何だ、そりゃ?」
「租界さ、郭里世租界」
「租界って……昔の中国にあった、外国人居留地じゃなかったか? 確か、上海とかにあったっていう」
 威智は世界史の授業で習った、租界についてのおぼろげな知識を思い出した。
「意味的には似てるね。昔の上海や天津にあった租界は、外国人の治外法権的な居居留地だったけど、郭里世租界の場合、外国人に相当するのが、人間から外れている存在……魔物なんだ」
「つまり、人間の世界にある魔物の居留地って事か。そんな街が、郭里世にあるなんて、知らなかったぜ」
「――まぁ、郭里世の外で人間に危害を加えた魔物を狩るって役目を、明治の終わり頃から果たしてきた一族である、黒羽裏家に関わる者達や、似たような立場にいる連中以外には知らされていない、一種の国家機密だからね」
「何で悧音の一族が、そんな役目を?」
「黒羽裏家は明治時代に、政府がヨーロッパから招聘した大魔法使いが開祖の、一族なのよ」
「明治政府が招いた?」
「そう。鎖国の時代が終わると同時に、海外から西洋とかの魔物が日本に来て悪さするようになったんで、そういう連中を退治して貰う為に」
(悧音の顔、どこか日本人離れしてるのは、政府が招いたヨーロッパの魔法使いの血が流れているからなのか)
 黒羽裏家の由来を知った威智は、悧音の日本人離れした外見の理由にも気付く。
「ま、人間に悪さをしない連中に限っては、郭里世みたいに租界を作って、そこに隔離して住まわせる制度になったんだけど」
「人間に悪さしない魔物とか、吸血鬼とかいるの?」
「いる……というか、租界に住んでる連中の殆どは、人間に悪さなどしないよ。吸血鬼だって、人を襲って強引に血を吸ったりとかしないし」
「人を襲わない? でも、血塗鴉って奴が……」
 血塗鴉に襲われたせいか、吸血鬼は人間を襲うものだと思い込んでいた威智は、冴子の話を聞いて、驚きの声を上げる。
「租界から出て人を襲う、血塗鴉みたいな魔物の方が、例外なのよ。その例外を狩って、人間を護るのが、黒羽裏家の役目な訳」
「そうなのか……」
「ま、質問はこれくらいでね。私が此処に来たのは、君の質問に答える為じゃなくて、君の身体の様子を、黒羽裏家の専属魔法医として、チェックする為なんだから」
 少し強引に、冴子は話題を切り替える。
「身体に異常が無いかチェックするから、布団を除けて、身体を見せて」
 冴子の言葉を聞いて、威智は焦り、狼狽する。
「え? あの……身体見せてって言われても、俺……ハダカなんだけど……」
「ハダカじゃないと、身体の状態がチェック出来ないでしょ」
 当然だと言わんばかりの口調で、冴子は続ける。
「悧音坊やがラヴァーズのカードを使うのは初めてだから、君の身体にトラブルが発生する可能性は高いんだ。今の内に身体の状態を、医者である私が調べておかないと、トラブルが手に負えないくらいに悪化してしまうかも知れないんだよ。それでもいいのかい?」
「いや、それは……」
 白衣姿の冴子の、妙に熱意が込められた感じの言葉には、説得力があった。無論、冴子の肩書きが、魔法が付くとはいえ医者である事も、言葉の説得力を増していた。
 それ故、威智は恥ずかしさを堪え、冴子の言葉にしたがう事にする。頬を赤らめつつ、掛け布団を除けて、威智は裸体を冴子の目に晒す。

          ☆          ☆

 次回、ようやく初アダルトなシーンに突入。アダルト向け小説なのに、100ページ近くまでアダルトなシーンが無いという、看板に偽り有り過ぎ状況が、やっと終わります。
 設定の変更に伴い、8回目を一部修正しました(吸血鬼化後の扱いについて)。

          ☆          ☆

 前作のTSF系アダルト向けライトノベル「少年少女ミケ」、DLsiteで発売中!

「跪いて接吻を強請れ(ひざまずいてくちづけをねだれ)」10 TSF属性・アダルト向けライトノベル

「これで、魔法の存在も、アテュを授けられた黒羽裏家の僕が、変身出来る事も、信じて頂けたでしょう」
 昨夜、血塗鴉に殺されかけた際に目にした、黒騎士風の格好に変身した上で、そう言われてしまえば、威智も天魔の話を信じるしか無い。威智は目を丸くしながら、何度も頷く。
 威智が頷いたのを確認すると、天魔はタロットカード風のベルトのバックルに、左掌を当てながら、口を開く。
「――ギャザー・アンド・バンドル!」
 集めて束にする……といった意味合いの言葉を天魔が口にすると、プロテクターが再び無数のカードに変化し、黒から元の色合いである黄色に変色しながら、ベルトのバックルに集まり始める。変身した際の映像を逆回しにしているかの様に、無数のカードは一枚に収束し、執事服姿に戻った天魔の左掌に納まる。
「ちなみに、私が授かっているのは、二十一番目のアテュ……宇宙」
 宇宙が描かれたカードを威智に見せてから、天魔は懐にしまう。
「アテュが宇宙で、変身した後は騎士みたいな格好になるから、変身した状態の切裂さんは、テッカマンって呼ばれてるんだ」 
「そんな、タツノコプロの古臭いアニメみたいな呼ばれ方は、誰からもされてません」
 桃生の冗談に突っ込んだ直後、天魔の懐から、荘厳なクラシックのメロディが流れる。ホルストの作曲した、土星という曲である。
「――失礼、悧音様からです」
 天魔は携帯を取り出し、電話をかけてきた相手である悧音と、会話を始める。威智と桃生を放置して、一分間程話してから、天魔は携帯を切って懐にしまう。
「天慶さんが目覚めているなら、早く執務室に連れて来いとの催促です」
「悧音から?」
 威智の問いに、天魔は頷く。
「私は此処に、天慶さんが目覚めているかどうかの確認に来ていたのですが、つい話し込んでしまいました。それでは天慶さん、執務室までおいで下さい」
「いや、おいで下さいって言われても、俺ハダカだから!」
 掛け布団を胸まで被ったまま、威智は恥ずかしそうに続ける。
「何か着る物が無いと、部屋から出られないって! つーか、俺は何でハダカなのよ?」
「傷の再生具合や、女性化の進行状態をチェックし易いから、松戸先生が天慶さんに、服を着せない様にと、指示を出していたもので……」
「いやー、それ松戸先生が天慶さんのハダカ、見たかっただけだと思うな」
 そう言った直後、桃生は突如、何かに気付いたかの様に、声を上げる。
「あ、そうだ! 私がこの部屋に来たの、天慶さんが着る服を届ける為だった!」
 桃生はエプロンのポケットに手を突っ込むと、中から折り畳まれた服の束を取り出す。
(――どうなってんだ、こいつのエプロンのポケット?)
 どう見ても、エプロンのサイズよりも大きな物が出て来る、桃生のエプロンを見て、威智は不思議そうに首をかしげながら、心の中で呟く。
「天慶さんが目覚めたら、ハダカじゃ困るだろうから、部屋に服を届けておいてくれって、さっき御主人様に言われたんで、ここに来たんですよ……私」
 取り出した服の束を、桃生は威智に手渡す。
「どうぞ」
「あ、どうも」
 威智は軽く頭を下げ、桃生から服の束を受け取る。
(悧音の奴、結構気が利くじゃねえか)
 裸の状態に心許なさを感じていた威智は、ようやく服を着られる事に安堵しながら、服を届けさせてくれた悧音に、有り難さを感じる。しかし、その感情は長くはもたなかった。
 何故なら、服の束を解いた威智は、自分が着るようにと手渡された服が、桃生が着ているのと同じ、メイド服一式であった事に、気付いたからである。
「何だよ、これ! メイド服じゃねえか! 着れるかよ、こんなもん!」
 威智はメイド服を丸めて、桃生に叩き付ける。
「こ、こんなもん? この素晴らしきビクトリアンなメイド服を、こんなもん扱いするとは! 貴様は矢張り、メイド喫茶という名の風俗店に通い、フレンチメイドという名の売女に、金を払って媚売らせる、脳が汚染されたオタクなのか!」
 自分も着ている、ビクトリア形式のメイド服を、こんなもん扱いされ、桃生はいきり立つ。
「いや、ビクトリアンかフレンチかという問題じゃなくて、男の俺が着る服として、女物のメイド服を持ってくる時点で、間違ってるっつーの! 男物を持って来いよ、男物を!」
「そう言われても、黒羽裏家の衣装室には、男物のメイド服は無いんだよねー」
「男物のメイド服じゃなくて、男物の服を持って来いって言ってるんだよ! 普通の男物の服を!」
「どうせこれから、女物の制服で学校とか通う羽目になるんだから、今の内から女物の服に慣れておいた方が、いいと思うんだけど」
 桃生の話を聞いた威智は、訝しげな顔で聞き返す。
「女物の制服で学校とか通う羽目になる? 俺が? それ、どういう意味だよ?」
「――その辺りの話は、後ほど御主人様から……」
 威智と桃生の会話に、天魔が割り込んでくる。
「愛哉さん、とりあえず今日は男物の服でいいです。衣装室から天慶さんの身体に合いそうな、男物の服を持って来て下さい」
 天魔が桃生に、そう指示した直後、再び室内にホルストの土星が流れ始める。天魔は懐から取り出した携帯電話で、話し始める。
 通話は一分もかからずに終わり、天魔は携帯電話を懐にしまう。
「御主人様からの、急ぎの呼び出しです。私は先に執務室に向かいますので、愛哉さんは男物の服を持って来た後、天慶さんを執務室まで連れて来て下さい」
 そう言い残すと、天魔は威智に背を向け、ドアに向かって歩き出す。
「あ、私も!」
 桃生も男物の服を取りに行く為、天魔の後を追い、ドアに向かう。そのまま、桃生と天魔はドアを開け、部屋から出て行った。
 威智は呆然とした表情を浮かべ、二人が出て行ったドアを眺める。
「――何かいきなり、静かになったな」
 先程までの喧騒が嘘であったかの様に、威智一人となった室内は、桃生と天魔が現れる前の静けさを取り戻していた。だが、その静けさは長続きはしなかった。


          ☆          ☆

 TSしたものの、アダルトなシーンに中々突入しませんが、これは確実にアダルト向け小説です。とりあえず、次回エロ魔法医登場予定。

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 前作のTSF系アダルト向けライトノベル「少年少女ミケ」、DLsiteで発売中!

「跪いて接吻を強請れ(ひざまずいてくちづけをねだれ)」09 TSF属性・アダルト向けライトノベル

「血塗鴉を殺し、奴の吸血による支配から、眷族達を解き放つという方法が」
 血塗鴉という言葉を天魔が口にした為、威智の頭の中に、血塗鴉の姿が蘇る。赤いマントに赤いスーツ、赤い仮面という出で立ちの、胡散臭い姿が。
「あいつを殺せば、威緒姉は助かるのか?」
 威智の問いに、天魔は頷く。
「だったら、あいつは俺が殺してやる! 威緒姉を助ける為に!」
「――慌てないで下さい、天慶さん」
 いきり立つ威智を、天魔は宥める。
「幾ら魔女になったからと言って、血塗鴉は天慶さん一人で、どうこう出来る相手じゃありません。昨夜、ご自分が何も出来ずに、血塗鴉に殺されかけたのを、忘れてしまったのですか?」
 天魔に窘められ、威智は気付く。自分が昨夜、血塗鴉に手も足も出ずに殺されかけ、威緒を護り切れなかった事などを。
「それに、魔女になったからと言って、天慶さんは魔法の使い方など、何も知らないでしょう?」
「それは、まぁ……そうだけど。でも、威緒姉が死ぬかもしれない……吸血鬼になるかも知れないってのに、何もしないではいられないだろ!」
「別に、天慶さんに何もするなと、言っている訳では有りません。一人では無理だと言ってはいますが、むしろ天慶さんには、黒羽裏家の仕事の一環として、血塗鴉の討伐に、協力して貰わなければならない位なのですから」
「協力……黒羽裏家の仕事に?」
 威智の問いに、天魔は頷く。
「既に天慶さんは、私同様……黒羽裏家の現当主である黒羽裏悧音様の、僕の一人となった訳ですから、黒羽裏家の為に働くのは、当たり前の事で……」
「お、俺が悧音の僕? 何言ってんだよ、おめーは? 俺は悧音の僕になんざ、なった覚えはねーぞ!」
 語気を荒げて、威智は天魔に食って掛かる。
「いえ、既に天慶さんは、悧音様の僕です。血契儀式(けっけいぎしき)も終わっていますから」
「血契儀式? 何だそりゃ?」
「魔法を使う者達にとって、重要な事柄を契約する場合に行う、文字通り血の契約の儀式だよ」
 威智の問いに、天魔では無く桃生が答える。
「天慶さんは昨夜、黒羽裏家の当主が受け継ぐ、二十二枚のアテュの六番目……ラヴァーズを授かり、悧音様の僕となる血の契約を交わしたんですから、今更何を言おうが、もう天慶さんは悧音さんの僕なのでーす!」
「俺は、そんな契約した覚え無いぞ!」
「それは、当然でしょう。天慶さんは血契儀式の際、気を失っていましたし」
「意識が無かった時に交わした契約なんて、無効に決まってるだろ! 無効だ、そんな……俺が悧音の僕になったなんて契約!」
「契約が無効……つまり、契約を破棄するという意味ですね。いいんですか? あの契約を破棄にして」
 天魔は意味ありげな笑みを浮かべつつ、威智に問いかける。
「いいに決まってるだろ」
 少しだけ天魔の笑みが気になったものの、威智は即答する。
「契約が破棄され、無効になるという事は、契約成立によって得たものを、失うという事を意味しているんですが」
「俺が、契約成立によって得たものって?」
「無論、命ですよ」
「い、命?」
 驚いて聞き返す威智に、天魔は頷いてみせる。
「昨夜、御主人様が黒羽裏家の家宝である、アテュと呼ばれるカードの一枚を使って、天慶さんを僕とする血契儀式を行い、人間離れした再生能力を与えたからこそ、天慶さんは今、生きていられるのですから」
「つまり、契約を破棄すると……俺は死ぬって事か?」
「ええ、血塗鴉に全身を斬り刻まれた状態に戻り、五分もかからずに現世と別れを告げる羽目になるでしょうね」
 天魔の話にショックを受けて狼狽し、威智は目線を泳がせる。
「悧音様の僕になるより、死んだ方がマシだと思うのでしたら、契約を破棄なさって結構です。契約の破棄をお望みでしたら、契約を破棄する方法……お教えしましょうか?」
 威智は天魔の問いに、答えない。答えないのは事実上、契約破棄の方法を聞き、破棄する気にはならないという事を、意味している。
(流石に、死ぬって言われたら、契約破棄は出来ないよな。幾ら、悧音の僕になるとか言われても……死ぬよりはマシだろうし)
 心の中で愚痴った後、威智は溜息を吐く。
「まぁ、天慶さんは悧音様の温情により、命を救われたのですから、恩返しのつもりで一年間、黒羽裏家の為に働いて下さい」
 気落ちした様子の威智に、天魔は慰めるかの様な言葉をかける。
「黒羽裏家で働く事は、威緒さんを助ける事にもなる訳ですし」
「一年間って……何で一年間なんだ?」
 天魔が口にした、一年間という期間が気になったので、威智は尋ねてみる。
「黒羽裏家当主が血契儀式で、僕と交わす契約期間は、基本は一年。つまり、悧音様の僕を一年間務め上げれば、契約は満了となり、契約を破棄する事無く、主従契約は終了する訳です」
「契約が満了した上で、主従契約が終了した場合は、どうなるんだ?」
「契約を果たし終えたので、契約によって得たもの……天慶さんの場合は命を失わずに済みますし、身体も元の男に戻ります」
 死なずに済み、身体も男に戻ると聞いて、威智の表情が明るくなる。
「無論、再契約による主従契約の更新も可能です」
「いや、間違っても再契約も更新もしねえから、俺は。悧音の僕ってのも嫌だけど、それ以上に男の身体に戻りてえし」
「そうですか、それは勿体無い」
 天魔は威智の顔や身体を、品定めするかの様な目で見る。
「結構、様になっているんですけどね、女性としての見目が。胸だって、本物の女性でありながら、貧相な胸しか持ち合わせていない愛哉さんより、遥かに豊かだというのに」
「そうそう、貧相な胸しか持ち合わせていない私より……って、さり気無く人の胸を貶すなよ、この陰険執事!」
(やっぱ執事だったのか、こいつ。それにしても、今時執事なんて職業に就いてる奴が、実在するとは驚きだ。フィクションの世界だけの職業だと思い込んでたぜ、執事)
 服装や態度から、天魔が執事らしいなと、威智は推測していた。推測はしていたのだが、執事という職業が実在する気がしなかった為、威智は天魔が執事なのだと、確証を持てずにいたのだ。
(――そういえば悧音の家って、凄い金持ちだって噂、聞いた事があったけど、執事がいる程の金持ちだったとはな)
 小学校時代に、友人などから聞いた噂話を、威智は心の中で思い出す。
「私だって変身すれば、これくらい胸でかくなるんだから!」
 懐かしい噂話を思い出している威智の、豊かな胸を指差しながら、桃生は言い切る。
「変身? 子供向けの特撮ドラマじゃあるめーし、何バカな事言ってるんだ、このメイドは?」
「灰色の脳細胞の持ち主である、この私をバカ呼ばわりするとは、この無礼者! もう一撃、バールのようなものアタックを食らわせてやる!」
 エプロンのポケットの中に手を突っ込み、取り出したバールのようなものを、桃生は振り上げる。しかし、バールのようなものが威智に振り下ろされる事は、無かった。
 何故なら、桃生の手から、バールのようなものが奪われたからである。
「これは没収しておきます。痛みで現実だと気付いてもらうという目的があった先程と違い、今回はただの暴力」
 バールのようなものを奪ったのは、天魔だった。 バールのようなものを手にしたまま、天魔は話を続ける。
「執事として、屋敷内での暴力沙汰を、見過ごす訳にはいかないのでね」
「分かった! 暴力沙汰は起こさないから、バールのようなもの返してよ!」
 瞳を潤ませ、神に祈りを捧げる様なポーズで、桃生は天魔に訴えかける。
「それ高かったのー! 今月のお小遣いの残り、それで全部使っちゃったくらいにー!」
「高かったといっても、一万円程度でしょうが。社会人だというのに、情け無い」
 天魔は呆れた様に首を横に振りながら、バールのようなものを桃生に返す。
「次に暴力沙汰に使ったら、没収じゃなくて消滅させますからね」
 バールのようなものを受け取り、ポケットにしまいながら、桃生は嬉しそうに頷く。
「――話が脇道に逸れましたが、愛哉さんが変身出来るという話は、事実です。私や天慶さん同様、彼女も悧音様からアテュを頂いている、僕ですから」
「そういう言い方されると、まるでアンタや俺まで、変身出来るみたいな風に聞こえるけど」
 威智の言葉に、天魔は頷く。
「その通り。私も天慶さんも、変身が可能です」
「おいおい、いい年した大人が、変身出来るとか……バカみたいな事言ってるんじゃねえよ」
 そう言いながら、威智は嘲笑する。
「本当に変身出来るなら、変身した姿でも見せてくれよ! そうすりゃ信じてやるから」
「私が変身した姿なら、もう天慶さんは見た事がある筈ですが?」
 天魔の言葉を聞いた威智は、訝しげな表情を浮かべる。
「何言ってんのよ、あんたが変身した姿なんて、俺は見た事無い……」
 威智の話が終わるのを待たず、天魔は臍の辺りに右掌を当てると、口を開く。
「――スプレッド!」
 すると、一枚のタロットカードが、腹部の右掌を当てた辺りから、浮き上がって来るかの様に現れる。現れたカードは、まるで細胞分裂する光景を撮影した映像を、早回しで再生しているかの様に、数百枚に分裂しながら拡散(スプレッド)し、天満の全身を覆い尽くして行く。
 天魔の身体を覆い尽したカードは、瞬時に色と形が変化する。色は黒く変化し、形は西洋の騎士が装着する、鎧の様なプロテクターに変化したのだ。
 スプレッドと唱えてから三秒後、天魔はファンタジー物の娯楽作品などに出て来る、黒騎士風の姿に、変身し終えていた。しかも、威智にとっては見覚えがある姿に。
「――その格好は、昨夜の……黒騎士みたいな奴!」
 天魔が変身した姿を見て、ようやく威智は気付く。天魔の声に、聞き覚えがある様な気がしていた理由に。

          ☆          ☆

 TSはしたものの、アダルトなシーンに中々突入しませんが、これは確実にアダルト向け小説です。

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「跪いて接吻を強請れ(ひざまずいてくちづけをねだれ)」08 TSF属性・アダルト向けライトノベル

「――確かに、この痛みは夢とは思えないけど、でも……」
 痛みにより現実感を覚えつつも、吸血鬼や魔法、女性化などの非現実的な出来事を、現実だと認識するのを、威智の理性が拒否しようとする。感覚的には現実だと、認識しつつあるのだが。
「一撃で痛みが足りないのでしたら、もう一撃行っておきますか?」
 桃生は再び、バールのようなものを振り上げると、勢い良く威智に振り下ろそうとする。
「必殺、バールのようなものアターック!」
「わ、分かった! 現実だ! 現実だって分かったから、バールのようなものアターックは止めろッ!」
 威智は慌てて、掛け布団を跳ね上げて盾とし、バールのようなものによる二撃目を受け止める。タイヤがパンクするかの様な音を立て、布団に付着していた埃が舞い、日差しを浴びて星屑の様に煌めく。
 布団のお陰で相当軽減されたものの、ある程度の衝撃が身体に伝わり、威智は軽い痛みを感じる。衝撃と痛みにより、威智は明確な現実感を、再確認する。
(マジで、夢じゃないのか……)
 女性化している事や、威緒がさらわれた事などが、夢では無い現実だと認めた威智の心は、不安感と衝撃に、激しく揺さぶられる。
「――布団を盾にして防ぐとは、中々やるな」
 舌打ちしながら、悔しげに呟く桃生を無視し、威智は天魔に問いかける。
「俺の姉は……威緒姉は、どうなったんだ?」
「昨夜、天慶さんが気を失った後、私が保護しました。現在は屋敷の地下室で、治療中です」
(あの変態吸血鬼に、さらわれてはいなかったのか! 良かった……)
 威緒がさらわれていなかったと知り、威智は胸を撫で下ろす。
「威緒姉を助けてくれたのか。だったら、礼を言わなくちゃならないな」
「いえ、礼を言われる資格など、私には有りません。威緒さんを保護はしたものの、血塗鴉による吸血を、私は阻止出来なかったのですから」
 天魔は申し訳無さそうに目を伏せながら、言葉を続ける。
「一度でも吸血鬼に血を吸われた以上、威緒さんは既に、吸血鬼の眷属。威緒さんを吸血鬼の眷族にされてしまった以上、使命を果たし損なったも同然なのですよ、私は」
 口惜しげな天魔に、威智は尋ねる。
「威緒姉が眷族……眷族って何だ?」
「眷族とは、従者や家来という意味の言葉です。吸血鬼の眷族の場合は、吸血鬼に血を吸われた者達を示しています。吸血鬼に血を吸われた人間は、血を吸った吸血鬼に支配される事になりますから」
 威智が過去に触れたフィクションに出て来る吸血鬼なども、血を吸った人間を支配出来る設定の作品が多かった為、天魔の解説は、威智にとって分かり易かった。
「そして、血を吸われてから、ある程度の時間が過ぎると、吸血鬼の眷族となった人間は、人間では無く吸血鬼と化してしまうのです」
「つまり、威緒姉は吸血鬼になっちまうって言うのか?」
 強い口調で詰問する威智に、天魔は首を縦に振る。
「吸血鬼化が進行するペースは、血を吸われた回数に比例するので、血を吸われた回数が一度の威緒さんの場合、吸血鬼化するまでの時間は、本来なら一週間程」
「一週間で、威緒姉が……」
「――あ、でも当家の魔法治療スタッフが、吸血鬼化進行を抑制する魔法治療を施しましたからー、二ヶ月くらいは威緒さん、吸血鬼化せずに済むらしいですよぉ!」
 天魔に続いて、桃生が緊張感の無い口調で、説明を始める。
「さっき地下病棟の様子見に行った時、松戸先生が言ってましたから。ちなみに、松戸先生っていうのは、当……黒羽裏家の専属魔法医で、腕は良いんだけど色情狂の変態さんで、男女問わずに……」
「愛哉さん、真面目な話をしている時に、あの変態に関する余計な話は、控えて下さい」
 にこやかな笑みを浮かべながら、天魔は桃生に頼む。口調こそ丁寧だが、天魔の声と態度には威圧感があり、桃生を黙らせてしまう。
「つまり、二ヶ月後には、威緒姉は吸血鬼に……」
「その通り……二ヶ月後には、威緒さんは吸血鬼と化してしまいます。人々の敵である、吸血鬼に」
「――で、血を吸われて吸血鬼となった者の内、三分の二は自我を失って、吸血鬼の完全なる操り人形としての、下級吸血鬼であるトラッシュになり、残りの三分の一が、普通の吸血鬼になるんだ」
 役目を終えたバールのようなものを、エプロンのポケットにしまいながら、桃生は説明を続ける。
「あ、ちなみにトラッシュってのは、クズの事。吸血鬼の出来損ないだから、トラッシュって呼ばれてるの」
「――それで、そのトラッシュだの普通の吸血鬼だのになったら、威緒姉はどうなるんだ?」
「人間世界から追放され、吸血鬼の世界の住民となります。吸血鬼が人間世界にいると、人々に危害を齎す存在になる可能性が高いですから」
「つまり、威緒姉は二ヵ月後には吸血鬼になり、俺達がいる人間社会から追放される運命から、逃れられないって訳か……」
 威緒が置かれている過酷な現実を知り、酷いショックを受けた威智の口調は、弱々しい。女性化した程度で驚き、混乱していた自分自身を情け無いと感じ、威智は自己嫌悪に陥る。
「――いえ、その運命から逃れる方法なら、一つだけ存在します」
 天魔の言葉を聞いて、沈みきった様に俯いていた威智は、面を上げる。

          ☆          ☆

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「跪いて接吻を強請れ(ひざまずいてくちづけをねだれ)」07 TSF属性・アダルト向けライトノベル

(な、何で俺が、男相手に胸を隠さなきゃならんのだ? 俺は男だっつーのに)
 威智は布団を引き上げ、再び胸を隠しながら、心の中で愚痴る。
「それにしても、吸血鬼に続いて、今度は魔法使いに魔女と来たか。全く……俺はどんだけ、中二病つーか、邪鬼眼テイストな夢を見てるんだよ」
「ですから、夢じゃ無いんですよ、天慶さん」
 話を信用しようとしない威智を見て、天魔は腕組みをし、悩む。どうすれば威智が自分の話を信じてくれるか、考え込んでいるのだ。
「ふっふっふっ! 悩んでいますね、切裂さん!」
 先程、威智にしたのと同じ様に、メイドは天魔を指差しながら、続ける。
「この私の灰色の脳細胞は、切裂さんの悩みを見抜いていますよ! 切裂さん、アナタは今現在の状況を夢だと思い込んでいる天慶さんに、どうすれば事実を信じて、受け入れて貰えるのだろうと、悩んでいますね?」
「それは、まぁ……愛哉(まなかな)さんの、言う通りなんですが。それは、灰色の脳細胞が無くても、場の空気が読める人なら、誰でも分かる事では?」
 天魔が愛哉さんと呼んだメイド……愛哉桃生(ももなり)は、天魔の話の前半だけを聞いて、胸を張る。
「当たってるでしょう? 見事な推理ショーでしょう? この黒羽裏家使用人きっての知恵者にしてミステリー通である私には、見破れない謎も解けない謎も、存在しませーん!」
(こいつは、人の話を聞かないというより、自分に都合の悪い話だけ、聞かないんだな)
 威智は天魔と桃生の会話を聞いて、そう理解する。
(――ん? そういえば、今……黒羽裏家って言わなかったか?)
 桃生の話に、黒羽裏家という言葉が出て来た事に、威智は気付く。直後、威智の脳裏に、子供時代の姿のままである悧音に、自分がキスされるイメージが浮かぶ。
 威智は気色悪さと恥ずかしさに、思わず声を上げそうになるが、何とか声を出すのを堪える。
(嫌な夢を思い出してしまったッ! な、何であんな夢見たんだ俺は?)
 頭を抱え込みながら、威智は煩悶する。
「愛哉さんには、解けない謎が無いと言うのなら、解いて貰いたいものですね」
 大仰に肩を竦め、天魔は続ける。
「どうすれば天慶さんに、今現在起こっている事態が夢では無く、現実だと受け入れて貰えるのかという、私が悩んでいる謎を」
「簡単ですよ、そんな謎なら、もう解けました!」
 朗らかな口調で、桃生は言い切る。
「現実と夢との区別がつかなくなってる人に、その区別をつけさせるには、痛みを感じさればいいって、古来より決まっているのです!」
「痛みを感じさせる?」
「その通りですよ、切裂さん! 人間は夢の中では、痛みを感じないと言うじゃないですか!」
 桃生は自慢げに、自分の考えを述べ続ける。
「つまり、夢か現実か分からなくなっている人には、痛みを与えてあげればいいんです! そうすれば痛みを感じて、夢では無く現実の事なのだと、自覚出来るんです!」
 そう言いながら、桃生はエプロンのポケットから、銀色の棒状の何かを取り出す。
「ちゃらららっちゃらーん! バールのようなものー!」
 未来の世界から来たネコ型ロボットの様な口振りで、桃生は取り出した棒状の何か……バールのようなものを、天魔に見せる。
「そ、それは怪シ屋(あやしや)の新商品、バールのようなもの!」
 桃生が取り出した、「バールのようなもの」を見て、威智は驚きの声を上げる。
「バールの様に見えますが、バールとは何処と無く違う感じの、この妙な棒の事を、天慶さんは知っているのですか?」
 天魔の問いに、威智は頷く。
「事件報道とかで、事件に使われた道具や凶器が、『ばーるのようなもの』って報道される事が、ネットとかで昔から突っ込みのネタに使われてたんだけど、その『バールのようなもの』っていうズバリな商品名の金属棒を、怪しげな通販業者として、胡散臭い通販好きの間で話題になってる怪シ屋が、先週発売したんだ」
 購読してるマイナーなマンガ雑誌の裏表紙に載っていた、通販広告の内容を思い出しながら、威智は通販グッズとしてのバールのようなものを、天魔に解説する。
「胡散臭い商品を売らせれば、並ぶ者が無いと言われる怪シ屋が、発売したばかりの、バールのようなものを知っているとは、天慶さん……アナタ結構、胡散臭い通信販売通ですね?」
 同じ趣味の仲間でも見付けた気分なのだろう、桃生は嬉しそうに、威智に語りかける。
「――発売されてるのは知ってたけど、まさか一万円も出して、そんな胡散臭い金属棒を買う人が、本当にいるとは思わなかった」
 実は結構、興味が有る商品だったのだが、ただの金属棒らしき商品を、一万円も出して買う気にはなれなかった威智は、本当に買った人がいた事を知り、驚く。
「一万円……また無駄遣いしたんですか、愛哉さん」
 少し呆れた様に、天魔は呟く。
「無駄遣いじゃないですよーだ! これで殴って痛みを与える事により、天慶さんに夢では無く現実だって、思い知って貰えるんですから!」
 そう言いながら、桃生は嬉しそうに、手にしたバールを振り上げる。
「ちょ……待て! おめーは一体、何をする気……痛ッ!」
 慌てふためきながら、桃生を制止しようと話しかけている途中の威智の頭に、バールのようなものが振り下ろされる。威智は頭の上で腕を組み、バールのようなものを受け止め、頭への直撃を避ける。
 頭への直撃を避けたとはいえ、金属棒で腕を殴られた為、威智は激しい痛みに苛まれ、顔を顰めて呻く。
「いてーじゃねーか! 何しやがるんだッ!」
 突然の暴力に、いきり立った威智は、桃生に食って掛かる。
「あ、今……いてーじゃねーかって言った! 天慶さん、痛みを感じたんですよね?」
 威智は桃生の言葉を聞いて、はっとした様な表情を浮かべる。自分が明確に、痛みを感じたのを、自覚したのだ。そして、痛みを感じた事により、ある明確な事実を、威智は突きつけられる羽目になった。
「痛みを感じたのでしたら、もうお分かりですよね。今現在、天慶さんの身に起きている事は、夢では無く、現実なのだと」
 自分が感じた痛みにより、自覚しつつある事実を、威智は天魔により、明確に言葉で突きつけられる。

          ☆          ☆

 前作のTSF系アダルト向けライトノベル「少年少女ミケ」、DLsiteで発売中!

「跪いて接吻を強請れ(ひざまずいてくちづけをねだれ)」06 TSF属性・アダルト向けライトノベル

「――失礼しまぁーす」
 やや間延びした感じの朗らかな声が、ドアの向こう側から聞こえて来た直後、ドアが勢い良く開く。入って来たのは、二十歳前後に見える、背の高い女性だった。
 その女性は、丈の長い黒のワンピースに、控えめなフリルで装飾された白いエプロンが組み合わされた、エプロンドレスを身に纏っていた。エプロンドレスを着ている上、頭には白いキャップを被っている為、女性の格好は、どう見てもメイドにしか見えない。
 メイドがかけている眼鏡の、フォックス型レンズ(古いフィクションなどで、教育ママ的なキャラクターがかけている、吊り目っぽく見える形状のレンズ)の下にあるのは、吊り目気味の切れ長の目。明るい茶色の髪を、メイドは後頭部でポニーテールにしている。
 眼鏡や目……髪の色などから、メイドの全体的な顔のイメージは、狐を思わせる。それ故、メイドの髪型はポニーテールよりは、フォックステールと呼んだ方が相応しそうだなと、威智は思う。
「それにしても、メイドか……俺は別にメイド喫茶に通うような、メイド属性の持ち主じゃないってのに、何でまた夢の中に、メイドなんか出て来やがるんだ?」
 夢の中に出て来た存在だと思い込んでいる、部屋に姿を現したメイドを目にして、威智は不思議そうに首を傾げる。
「しかも、メイド服のデザインが、妙に古臭い。スカートの丈は長いし、頭はカチューシャじゃなくて、ドアノブのカバーみたいな帽子だし……」
「ふ、古臭いだのドアノブのカバーみたいな帽子だの、失礼なっ!」
 威智の言葉を聞き取ったメイドは、ずかずかと大股で歩いて威智に迫りながら、強い口調で抗議する。
「このスカート丈が長いメイド服は、伝統あるヴィクトリアンメイドが袖を通す、正統派と言えるメイド服なんですよ! ヴィクトリアンメイドの良さが分からないのは、チャラついたメイド喫茶とかで良く見かける、はしたないフレンチメイドのメイド服に脳内が汚染されてる、日本のオタクだけなんです!」
 そう捲くし立てたメイドは、威智を指差して断言する。
「つまり、アナタはオタクな訳ですね! メイド喫茶という名の風俗店に通い、金を払えば媚を売ってくれる、汚れた腐れフレンチメイド連中相手に、鼻の下伸ばして人生の憂さを晴らしてる、メイド属性のオタクなんでしょう、アナタは!」
「ち、違うわいっ! メイド属性も持ち合わせちゃいないし、メイド喫茶なんざ、足を踏み入れた事も無いわっ!」
 メイド属性のオタクだと、事実とは異なる決め付けをされた威智は、語気を荒げて反論する。
「無駄無駄無駄無駄、無駄ですよ天慶さん! このミステリー通である私は、アナタが嘘を吐いている事を、既に見破っているのですから!」
 威智の反論を平然と否定し、メイドは眼鏡のフレームを指先で弄りつつ、話を続ける。
「赤川次郎作品を全て読破している、この私の灰色の脳細胞が下した、アナタがメイド属性のオタクだという推理が、外れる事などあるでしょうか? 無論、ありえません!」
「いや、思いっきり外れてるってば! それに、そもそも灰色の脳細胞なら、アガサ・クリスティじゃないの、赤川次郎じゃなくて」
 呆れた様な口調で威智が反論しても、メイドは意に介さない。
「赤川次郎だけじゃなくて、名探偵コナンも全巻揃えている上、アニメも欠かさず見てるくらいのミステリー通なんですよ、この私は! しかも、冬のボーナスで矢沢栄吉がコマーシャルに出てる、ソニーのブルーレイのレコーダーまで買っちゃいましたから、今年からは名探偵コナンを、ブルーレイの高画質で録画するんです!」
「――このメイド、人の話とか聞かない性格みたいだな」
 メイドの性格の一端を、ようやく威智は見抜く。
「何でまた、夢の中に赤川次郎と名探偵コナン好きの、人の話を聞かないメイドが出て来るんだ?」
 誰も応えないだろうつもりで、威智は独り言を呟く。しかし、意外な事に、その独り言には反応があった。
「夢? 何の事です?」
 誰も応えないだろうつもりの独り言に、反応があった事に驚き、威智は声が聞こえて来た方向に目を遣る。声の主はメイドでは無く、聞き覚えのある男性の声だった。
 声が聞こえて来たのは、メイドが入って来たドアの方向。メイドとは別の誰かが、ドアを開けて入って来ていたのだ。
「――あ、失礼しました、いきなり会話に割り込んでしまって」
 軽くではあるが、礼儀正しく威智に礼をした上で、声の主は話を続ける。
「ノックはしたのですが、お二人は楽しげに会話に興じて居た様なので、返事は無かったのですが、部屋に入らせて頂きました」
 声の主は、黒い執事服姿の天魔だった。
「あ、切裂さん!」
 天魔の存在に気付いたメイドは、驚きと気まずさが混ざり合った様な表情を浮かべる。
「――それで、話を戻させて頂きますが、夢というのは何の事です?」
「いや、その……これって……俺が見てる夢なんだよな? だって、男の俺が女の身体になって、何処だか分からない場所で、誰だか分からない連中と話してるなんて、現実の訳が無いし……夢なんだよね……って意味」
 そこまで話して、ようやく自分が乳房を露出したままだった事に気付き、威智は掛け布団を引き上げて、胸を隠す。
「成る程、つまり天慶さんは、自分が女性の身体になっているという明晰夢を見ているのだと、考えている訳ですね?」
 威智は、天魔の言葉に頷く。
「ひょっとしたら、女性の身体になる前に、血塗鴉という赤ずくめの吸血鬼に、姉をさらわれた上に、全身を爪で切裂かれて、殺されそうになった夢とか、見た覚えがあるのでは?」
「な、何でアンタが、そんな事知ってるんだ?」
 驚いたのだろう、威智は目を丸くして、天魔に問いかける。しかし、すぐに落ち着きを取り戻す。
「考えてみれば、この男も俺の脳が作り出してる、夢の中のキャラクターなんだから、さっきまで俺が見てた夢を知ってても、おかしくは無いか。俺が見てた夢の内容を知ってる俺の脳が、この男を作り出してるんだからな」
 そう考えれば、自分が先程まで見ていた夢の内容を、目の前に現れた男が知っていても、変では無いと威智は考えたのだ。しかし、その威智の考えは、あっさりと否定された。
「現実なのですよ、天慶さん」
 否定したのは、威智にとって、何故か聞き覚えの有る声の主である、天魔である。
「信じ難い事なのかも知れませんが、天慶さんが女性になったのも、血塗鴉に姉をさらわれた上に、全身を切刻まれて殺されそうになったのも、夢では無くて、全て現実です」
「そんな、バカな! 身体が女になる訳も無いし、吸血鬼なんて存在する訳無いし、殺されそうになったのが現実なら、斬り裂かれた傷が残ってる筈じゃないか!」
 傷一つ無い両腕を、威智は天魔に見せ付ける。
「――傷は昨夜の内に、全て治ったんですよ。今の天慶さんは、並みの人間を遥かに越える再生能力を持っているんですから、普通の人間なら確実に死んでいただろう傷を負ってしまっても、一晩ゆっくりと休めば、身体は元通りに戻るのです」
「出鱈目な事ばっか、並べ立ててんじゃねえって! 俺は普通の人間なんだから、そんな再生能力なんか持って無いぜ!」
「確かに、元々は普通の人間だったのですが、昨夜……天慶さんは普通の人間では無くなったんです。我が主に、力を与えられた事によって」
「普通の人間じゃなくなった? だったら、俺は何になったんだ? 寝ている間に性転換手術でも受けて、ニューハーフになったとでも言うのかよ?」
 そう捲くし立ててから、威智は肩を竦め、呆れていると態度で示す。
「天慶さんは、魔法使いになったのですよ、私と同じ……」
「ま、魔法使い?」
 天魔の返答を聞いた威智は、驚きの余り声を上擦らせながら、聞き返す。その際、上体を微妙に前に傾けた為、胸に被せていた掛け布団が落ちて、胸が露になる。
 揺れる瑞々しい威智の双乳を目にして、天魔は思い直したのだろう。発言を微妙に訂正する。
「――いや、天慶さんの場合は、魔法使いじゃなくて魔女ですね。女性になった訳ですから」

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「跪いて接吻を強請れ(ひざまずいてくちづけをねだれ)」05 TSF属性・アダルト向けライトノベル

「うわああああああああああああッ!」
 突如、威智は奇声染みた悲鳴を上げる。
「な、何しやがるんだ! このド変態ッ!」
 何者かに対して怒鳴りながら、威智は上半身を起こす。しかし、その怒鳴り声に応える者はいない。
「あれ? 悧音は?」
 威智は自分の周りを見回し、状況を確認する。古びてはいるが、瀟洒な雰囲気に設えてある洋室の光景が、威智の目に映る。洋室の中には、威智以外の人間の姿は無い。
 洋室の窓際にあるベッドの上にいた事から、自分は眠っていたらしいと、威智は気付く。室内を照らしている、窓から挿し込む眩しい日差しのせいで、目覚めたのかもしれないなと、威智は思う。
「眠ってたって事は、今のは夢だったのか。良かった」
 威智は安堵の溜息を吐く。
「吸血鬼に身体を切り裂かれて殺されかけた上、悧音にキスされるなんて、どんだけ趣味の悪い夢を見てるんだよ、俺は」
 背筋を伸ばして万歳の姿勢をとり、威智は大きくあくびをする。
「それにしても、夢にしては、妙に感覚がリアルだったな。吸血鬼に斬られた部分の痛みや、唇の感触とか……」
 呟きながら、威智は自分の両腕の様子を確認する。服を着ていないらしく、露出している威智の左右の腕には、傷一つ確認出来ない。
「腕には傷跡一つ無し……と。ま、斬られたの夢の中なんだから、当たり前なんだが。そもそも、吸血鬼なんている訳がねえし」
 夢だとは思いながらも、妙に斬られた感覚や痛みに現実感があった為、自分が夢の中で斬られた……と思っている部分の状態を、威智は一応、確認してしまう。
「確か、胸も斬られたんだよな、ナイフみたいな爪で、ざっくりと」
 斬り裂かれた胸から、シャワーの様に鮮血が噴き出るイメージを思い浮かべながら、威智は胸を見下ろし、滑らかな白い肌には、傷一つ無いのを確認する。裸なので、直に胸の肌の様子が確認出来るのである。
「胸にも傷は無し……ん?」
 確かに、威智は自分の胸に、傷が付いているのを確認出来なかった。しかし、付いている筈が無い別の物が付いているのを、威智は確認してしまったのだ。
「え?」
 自分が目にした物が信じられないのか、威智は一度胸から目線を外し、目を擦る。そして、改めて大きく目を見開き、胸を見下ろしてみる。
 すると、威智が先程、目にした通りの物が、胸に付いていたのだ。威智の胸に付いていた物……それは、二つの乳房。
 白い滑らかな肌に覆われた、見るからに柔らかそうな二つの乳房は、威智の呼吸に合わせて、静かに揺れていた。
「えーっと、俺……太った?」
 男でも太れば、胸に贅肉が付いて、乳房の様になってしまう。乳房が自分の胸に付いているのを目にした威智は、自分が太ったのでは無いかと考えたのだ。
 威智は自分の腹を摘んでみる。少しだけ皮下脂肪が増え、軟らかくなった気はしたが、腹部はスリムな状態を維持していたので、威智は自分が太った訳では無い事を知る。
「太った訳でも無いのに、胸が女のおっぱいみたいになってる……」
 そう表現するしか無い状態に、自分の胸が変化しているのを、威智は自覚する。太った男の胸では有り得ない形の良さというだけでなく、並みの女性を越える、グラビアアイドルレベルのボリュームがある乳房にしか、見えない状態になっているのだ。
 自分の胸に、女性の乳房が付いているのを自覚した威智の頭を、別の不安が過ぎる。
「――女みたいになってるの、胸だけなのか?」
 威智は恐る恐る、男女の身体において、胸以外に明確に違いを確認出来る部分に、右手を伸ばしてみる。そして、股間に伸びた右手は、本来なら存在する筈の、男性としての物が消え失せ、代わりに女性としての物である、谷間が存在しているのを、感じ取ってしまう。
 手の感触だけでは信じ難かった威智は、下半身を覆っていた白い掛け布団を捲って、自分の股間を視認する。すると、そこは手で触れて感じた通り、男性器の姿は見えず、薄い毛に覆われた、唇に例えられる女性器が、姿を見せていた。
 股間までもが女性化しているのを確認した威智は、布団を元の状態に戻してから、暫しの間、頭を抱えて考え込む。そして、一つの結論に達する。
「そうだ! これってギャグマンガとかで時々見かける、夢から覚めたら、また夢って奴なんだよ! そうに違いない!」
 自分に言い聞かせる様に独り言を口にしてから、自分の独り言を肯定するかの様に、威智は何度も頷いてみる。
「つまり、今も俺は夢の中にいる訳なんだ。この身体が女になってる夢からも覚めれば、俺は元通りになるんだよ! こういう風に、自分が夢を見ていると自覚してる夢の事を、明晰夢とかいうんだよな、確か……」
 独り言の途中、いきなりドアをノックする音が、部屋の中に響き渡る。
(ゆ、夢の中に、誰か出て来るのか?)
 他者の出現を意味する、突然のノックの音を耳にして、威智は驚いて身を竦ませながら、心の中で呟く。窓際の反対側の壁にある、叩かれた木製のドアに、威智は目を遣る。

          ☆          ☆

 ようやくTS展開に突入、前振り長過ぎでした。

          ☆          ☆

 前作のTSF系アダルト向けライトノベル「少年少女ミケ」、DLsiteで発売中!

「跪いて接吻を強請れ(ひざまずいてくちづけをねだれ)」04 TSF属性・アダルト向けライトノベル

「嫌そうな顔で、舌打ちしてる場合では無いでしょう、ご主人様」
 悧音の元に戻って来た天魔は、呆れた様な表情を浮かべている。
「――早くアテュを使って助けないと、本当に死にますよ、この少年」
「切裂、貴様には血塗鴉を捕えろと、命じた筈だが?」
 意識を失っている瀕死の威智から、天魔に目線を移しつつ、悧音は問いかける。
「申し訳御座いません、血塗鴉は取り逃がしてしまいました」
 恭しく頭を下げて謝罪する天魔は、既に黒い鎧を身に纏ってはいない。タキシードを思わせるダークな色合いの、いわゆる執事服に、天魔は身を包んでいる。
 鎧を身に纏っていない為、地味ではあるが端正な顔立ちを、天魔は露にしていた。やや長めの髪を、オールバックで丁寧に整えている天魔は、年齢は二十代中頃に見える。
「この娘に邪魔されてしまったお陰でね」
 この娘とは、天魔が抱き抱えている威緒である。威緒は気を失っているらしく、目を閉じて、身体を天魔に預けきっている。
「この顔は……威緒さんじゃないか!」
 天魔の腕の中にいる威緒を目にして、悧音は驚きの声を上げる。
「お知り合いの方なのですか?」
「ああ、小学校を卒業する頃まで、色々と世話になった人だ。このロクデナシが仕掛けた悪戯やら悪ふざけから、色々と助けて貰ったりしたものだよ」
 この野郎と言いながら、悧音は足元の威智を指差す。
「威緒さんが、血塗鴉を捕える邪魔をしたという事は、威緒さんは血塗鴉に、血を吸われたという事か……」
 悧音の言葉に、天魔は頷く。
「それで、威緒さんの状態は?」
「ご安心下さい、気を失っているだけです。血を吸われたばかりらしく、吸血鬼化も、殆ど進行してはおりません」
 天魔の返答を聞いて、悧音は胸を撫で下ろす。
「まぁ、吸血鬼化が殆ど進行していないとはいえ、この娘は既に血塗鴉の命に従う眷族。血塗鴉を捕えようとした所、血塗鴉は私の元に、この娘を差し向けてきたもので……」
「妨害して来た威緒さんを、傷付けぬ様に気を失わせている間に、血塗鴉は逃亡した……という訳か」
「面目有りません。館に戻り次第、即座に吸血鬼化を抑制する治療を、施します」
 恭しく、天魔は悧音に頭を下げてから、話題を切り替える。
「――ところで、繰り返しになりますが、早くアテュを使って血契儀式を行わないと、この少年……死んでしまいますよ。一刻も早く、儀式を執り行って下さい」
「いや……でも……使えるアテュは、ザ・ラヴァーズしか残って無いんだよ」
 悧音は気まずそうに、天魔から目線を逸らす。
「承知しています。二十二枚のアテュの中で、御主人様が解放に成功したのは、十枚。その中で現在オーナーがいないカードは、ザ・ラヴァーズだけだという事は」
「解放済みのカードの中で、ザ・ラヴァーズだけ誰にも授けなかったのは、このカードは色々と使用する際、問題が多過ぎるからな訳で……」
「それも、承知しております。ですが、今は人命がかかっている、緊急事態なのですよ、御主人様」
「――それくらいは、言われんでも分かっている」
「人外の輩が及ぼす危害から、人々を護る事こそ、黒羽裏家当主である悧音様に課せられし使命の筈。多少、使用によって気まずい思いをせざるを得ないアテュ……ザ・ラヴァーズのカードであっても、それを使う事により、人外の者……血塗鴉に殺されんとしている者の命を救えるのなら、迷わずに救う義務があるのです、黒羽裏家当主である悧音様には!」
「黒羽裏家当主の座を継いだ以上、そういった義務や責務を背負っているのは、僕も分かってはいる! だが、僕は昔……こいつに色々と酷い目に遭わされたんだ!」
 過去の嫌な思い出を思い出しながら、悧音は不愉快そうに続ける。
「居眠りをしている間に、髪の毛をセメンダインでウルトラマンみたいに固められたり、水泳の授業中に水着を下ろされたり、教室の机の引き出しに、牛乳を拭いた雑巾を入れられたり、上履きの中にスライムを入れられたり……」
「――この少年に色々と酷い目に遭わされたとはいえ、それらの酷い目というのは、死にそうになっている時に見殺しにされる程に、酷い目では無いでしょう」
 嗜める様な口調で、天魔は続ける。
「この少年を御主人様が見殺しにした場合、御主人様は御主人様が嫌っている、この少年よりも酷い真似をした事になります。御主人様は、ロクデナシ以下の存在に、なりたいのですか?」
 天魔に窘められ、悧音は気付く。威智を見殺しにすれば、自分が威智よりも酷い真似をした、ロクデナシ以下の存在になるのだと。
「――仕方が無い、助けてやるか」
 威智を助ける決意を固めたとはいえ、気が進まないのだろう。そう呟いた後、悧音は溜息を吐きながら、ジャケットの内ポケットの中から、カードケースを取り出す。
「血契儀式、始めるぞ」
 取り出されたのは、色使いの派手な、古臭いデザインのタロットカードの一枚。裸の男女と天使が描かれた、六番目のアテュ(トート・タロットにおけるメジャー・アルカナ)である、ザ・ラヴァーズのカード。
 悧音は右手の小指を軽く噛み、傷付ける。そして、赤いビーズの様に滲み出て来た血を、左手で持っているザ・ラヴァーズのカードに描かれた男の上に、付着させる。
 続いて、悧音はしゃがみ込んで、血塗れの威智の右手を手に取ると、ザ・ラヴァーズのカードに誘い、描かれている女の上に、指先を濡らしている威智の血を付着させる。そして、二人の血がついたカードに軽くキスして、悧音は唇に二人の血を付着させる。
 血契儀式という名が示す通り、血を使う契約の儀式を、悧音は始めようとしているのである。
「力を望みし者よ、我と血契を交わし、我が僕(しもべ)となれ」
 カードを引き裂かれた威智の臍の上辺りに置きながら、悧音は詩を朗読するかの様に、呪文を唱え始める。
「さすれば、我は汝に力を与えよう。我が血族が受け継ぎし、力を」
 悧音は威智に覆い被さり、威智の顔の上に自分の顔を移動させる。弱々しく息をしている威智の顔を、間近で見下ろしながら、悧音は呪文を唱え続ける。
「滅ぼす力を与えよう、我が敵を滅ぼす為に。護る力を与えよう、我を傷付けんとする者から、我を護る為に蘇る力を与えよう、我に先んじて滅ぶ事無く、我に尽くす為に」
 すると、ザ・ラヴァーズのカードが、仄かな白い光を放ち始める。
「ザ・ラヴァーズが発動しました」
 血契儀式の呪文が唱えられた事により、発動して光りだしたザ・ラヴァーズのカードを見下ろしながら、天魔は続ける。
「発動状態は、一分も続きません。御主人様、一刻も早く、血契儀式の完遂を」
 悧音は天魔の言葉聞いて、顔を顰めながら愚痴る。
「――ここまでは、他のアテュの血契儀式と同じなんだが、ザ・ラヴァーズの場合、この先が嫌なんだよ、特に……男相手というか、コイツ相手は」
「何を今更、躊躇っているんですか、御主人様! まさか、助けられる人間を、見殺しにするつもりでは?」
「分かった! すればいいんだろ、すれば!」
 半ば自棄にでもなった様に、そう言い捨てると、悧音は威智に顔を寄せ……唇を重ねる。悧音は死に掛けている威智と、キスを交わし始めたのだ。
(な、何で僕が、男相手にキスなんか……しかも、よりによってコイツなんかと)
 心の中で愚痴り続けながらも、悧音は血契儀式を完遂する為、血の味のする接吻を続ける。すると、威智の腹の上で光っていたザ・ラヴァーズのカードが、威智の腹部に溶け込んで行く。まるで、トーストの上で溶けるバターの様に、カードは溶けて威智の身体に沁み込んで、姿を消してしまう。
「少年とザ・ラヴァーズが、融合しました」
 天魔の声を聞いた悧音は、威智から唇を離すと、ハンカチを取り出して唇を拭う。露骨なまでの嫌悪感を、顔に表しながら。
「我と血契の接吻を交わし、汝は我が僕となった。僕としての姿を我が前に現せ、第六の僕……恋人よ!」
 ザ・ラヴァーズの血契儀式、最後の呪文を悧音が唱え終えた直後、ザ・ラヴァーズのカードと融合した威智の身体が、強烈な白い光を放ち始める。威智の放った光は、夜の住宅街を、真っ白に塗り潰してしまう。


          ☆          ☆

 メイン二人が少年と美少年の上にキスまで交わし、TSF物の匂いがしないどころか、ヘタすればBL系の匂いがしてしまいそうな状態ですが、この作品は確実にTSF作品です。
  メジャー・アルカナという言葉を、アテュに変更しました。
          ☆          ☆

 前作のTSF系アダルト向けライトノベル「少年少女ミケ」、DLsiteで発売中!
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